【2026年8月時点】能登地方は令和6年能登半島地震からの復旧途上にあり、施設の営業時間・料金・休業の状況が変わることがあります。いしるやこんか漬けの醸造元・水産加工場は輪島市や珠洲市、能登町に多く、被災により製造を休止したのち再開した蔵もあれば、いまも製造量を戻せていない蔵もあります。工房見学や直売所の訪問、商品の取り寄せを予定している場合は、事前に各社の公式サイトや電話で状況をご確認ください。

石川県の伝統発酵食品かぶら寿し
石川の冬の味覚・かぶら寿し(Photo: Ttaakkaco / CC BY-SA 4.0)

能登半島は、日本有数の発酵食品の宝庫です。魚醤「いしる」、糠漬けの一種「こんか漬け」、冬の風物詩「かぶら寿し」など、能登の厳しい自然環境と先人の知恵が生み出した発酵食品は、世界農業遺産「能登の里山里海」の食文化を象徴する存在です。日本海の豊かな海の幸と、山間部で育まれた農産物が出会い、微生物の力を借りて生まれる能登の発酵食品の奥深い世界をご紹介します。

能登半島では、冬の寒さと湿度が発酵に適した環境を生み出し、古くから保存食としての発酵文化が根付いてきました。能登の里山里海が育む食の多様性は、地域の暮らしと自然が一体となった持続可能な食文化の好例として、世界的にも注目されています。

能登の魚醤「いしる」の伝統

いしる(いしり)は、能登半島に伝わる日本三大魚醤のひとつです。タイやベトナムのナンプラーと同じく、魚を塩漬けにして発酵させた液体調味料で、能登では数百年にわたって受け継がれてきた伝統的な調味料です。秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油と並ぶ日本の代表的な魚醤として知られています。

いしるには大きく分けて二種類あります。能登半島の内浦(七尾湾側)で作られるいかを原料とした「いしり」と、外浦(日本海側)で作られるいわしやさばを原料とした「いしる」です。いかのいしりは濃厚でまろやかな旨味が特徴で、いわしのいしるはより力強い風味があります。

製法は、魚介を内臓ごと塩と一緒に桶へ漬け込み、自然に発酵・熟成させるシンプルなものです。文化庁の登録解説によれば、仕込みは秋から春にかけて行われ、良好な風味を得るには1年以上の熟成期間が必要とされます。農林水産省の資料では、いわしを使ういしるは約半年〜1年、いかを使ういしりは約2年桶で寝かせ、能登町ではまろやかさを出すためさらに1〜2年熟成させることもあるとされています。長期熟成により魚のタンパク質がアミノ酸に分解され、深い旨味が生まれます。

この製造技術は2023年3月23日に「能登のいしる・いしり製造技術」として国の登録無形民俗文化財に登録されました。いしるは能登の郷土料理に欠かせない存在で、「いしる鍋」は能登の冬の名物料理です。魚介類や野菜をいしるで味付けした鍋料理は、独特の深いコクが楽しめます。

近年では、いしるの旨味成分が科学的にも注目を集め、イタリアンやフレンチのシェフたちが隠し味として使用するケースも増えています。パスタソースやドレッシングにほんの少し加えるだけで、料理に奥行きのある旨味が加わると評判です。

能登のこんか漬けと糠の文化

こんか漬けは、魚を米糠(こぬか)と塩で漬け込んで発酵させた能登の伝統的な保存食です。「こんか」とは「米糠(こぬか)」が訛った能登の方言で、「こんかいわし」「こんかさば」「こんかぶり」など、漬ける魚の種類によってさまざまなバリエーションがあります。

能登の伝統的な糠漬け
日本の伝統的な糠漬け(Photo: DoWhile / CC BY-SA 3.0)

特に有名なのがこんかいわしです。新鮮ないわしを塩漬けにした後、米糠と唐辛子を加えて半年から1年以上漬け込みます。長期発酵により、いわしの身はねっとりとした食感になり、チーズのような濃厚な旨味が生まれます。そのままスライスして食べたり、軽くあぶって食べるのが一般的で、日本酒や能登の地酒との相性は抜群です。

こんかさばは、さばを同様に糠漬けにしたもので、こんかいわしよりもやや上品な味わいが特徴です。こんかぶりは寒ブリを使った贅沢な一品で、冬場に仕込まれる能登ならではの珍味です。

こんか漬けは、冷蔵庫のない時代に能登の漁師たちが大漁時の魚を無駄なく保存するために生み出した知恵の結晶です。糠に含まれる乳酸菌の働きで魚が発酵し、独特の風味と長期保存性が実現されます。現在でも穴水町や能登町、七尾市、輪島市などの家庭や水産加工場で伝統的な製法が受け継がれています。ただし令和6年能登半島地震では奥能登の加工場が大きな被害を受け、生産量を戻しきれていないところもあります。お土産として買える能登の道の駅や特産品店でも、品切れや取扱休止があるとお考えください。

能登のかぶら寿しと発酵寿司

かぶら寿しは、塩漬けにしたかぶら(蕪)にブリの切り身を挟み、米麹(こめこうじ)で漬け込んで発酵させた石川県を代表する郷土料理です。「寿し」と名がつきますが酢飯は使わず、麹の発酵による自然な甘みと酸味が特徴の「なれずし」の一種です。正月料理として珍重され、12月から1月にかけて石川県内の家庭や料亭で作られます。

かぶら寿しの製法は手間がかかります。まず、冬の寒さで甘みが増した大きなかぶらを厚めにスライスし、塩漬けにします。別に塩漬けしたブリの切り身をかぶらに挟み、米麹と一緒に樽に漬け込みます。約1週間から10日ほどの低温発酵を経て、麹がブリの旨味を引き出し、かぶらのシャキシャキとした食感とブリの脂の旨味が調和した絶妙な味わいが完成します。

能登半島では、かぶら寿しのほかにも「大根寿し」「かぶのすし」などの発酵寿司文化が根付いています。大根寿しは大根とにしんを麹で漬け込んだもので、かぶら寿しよりも庶民的な味わいとして親しまれています。これらの発酵寿司は、能登の冬の食卓を彩る欠かせない存在です。

能登の発酵食品を味わえるお店・体験情報

能登半島では、発酵食品を実際に味わったり、製造体験ができるスポットがいくつもあります。能登の発酵文化を深く知りたい方におすすめのスポットをご紹介します。

ヤマト醤油味噌/ヤマト糀パーク(金沢市大野町)は1911年創業の老舗醸造元です。本社の「ヤマト糀パーク」では、糀蔵を巡る無料のガイドツアー(約30分/平日1日2回、土日祝1日3回)が用意され、みそぼーる作り体験(1,320円・約20分)などのワークショップも開かれています。直売所「ひしほ蔵」では醤油・味噌・甘酒を試食試飲でき、併設の「発酵食美人食堂」では季節の発酵食ランチを味わえます。営業時間は10:00〜17:00、水曜定休。能登ではなく金沢の醸造元ですが、石川の発酵文化の入り口として訪ねやすいスポットです(団体は要予約)。

能登町小木のいしり製造元としては、イカの内臓を用いた「いしり」を造るカネイシ(能登町小木)などが知られ、いしりポン酢といった日常使いしやすい加工品も手がけています。ただし震災後は各社とも製造・販売の体制が変わっており、工房の見学を受け入れているかは時期によって異なります。訪問を希望する場合は必ず事前に各製造元へ直接お問い合わせください。取り寄せなら各社の公式オンラインショップが確実です。

お土産として買うなら、七尾市の道の駅 能登食祭市場が便利です(物販9:00〜17:00・火曜休館、祝日は営業。震災の影響で営業時間が変わる場合あり)。こんか漬けやいしるなどが並び、冬季(12月〜1月)にはかぶら寿しの販売も見られます。なお輪島朝市は2024年1月の火災で朝市通り一帯が焼失し、朝市通りでの営業は再開していません。現在は「出張輪島朝市」がワイプラザ輪島店(輪島市宅田町41)で9:00〜13:00・水曜休で開かれています。能登の海藻を使った発酵食品も注目されており、海藻の佃煮や塩辛など、海の幸を活かした加工品も豊富です。

能登の発酵食品は、長い歳月をかけて微生物が作り出す自然の旨味の結晶です。いしるの深いコク、こんか漬けのねっとりとした濃厚さ、かぶら寿しの麹の甘み——それぞれに能登の風土と先人の知恵が凝縮されています。能登の郷土料理とともに、発酵食品の奥深い世界をぜひ体験してみてください。

能登の発酵食品のよくある質問

能登の発酵食品にはどんなものがありますか?
代表的なのは①いしる(いしり):イカやイワシなどを原料とする魚醤で、日本三大魚醤のひとつとされる②こんか漬け:イワシ・サバなどを米糠で発酵させた保存食③このわた:ナマコの腸の塩辛(日本三大珍味のひとつ)④かぶら寿し:カブラにブリなどを挟んで乳酸発酵させた冬の味(加賀・能登で親しまれる)です。能登杜氏が仕込む地酒や、海藻・魚の塩蔵・干物文化も含め、「能登の里山里海」(世界農業遺産)を支える食の柱です。
いしる(いしり)はどこで購入できますか?使い方を教えてください。
購入の目安は、七尾市の道の駅「能登食祭市場」、珠洲市の道の駅「すず塩田村」(震災後に営業再開・状況は変動し得る)、能登の土産店やオンラインショップなどです。輪島朝市通りは2024年1月の火災で焼失し、朝市通りでの営業は再開していません。代替として「出張輪島朝市」がワイプラザ輪島店などで開催されています(時間・休は変動)。いしるの使い方は、いしる鍋、炒め物の隠し味、刺身のつけだれ(薄めて)、ドレッシングなど。イカ原料の「いしり」とイワシなど魚原料の「いしる」で風味が異なります。
能登の発酵食品が体験・見学できる施設はありますか?
道の駅すず塩田村では揚げ浜式塩田や塩を活かした加工品に触れられます。七尾の能登食祭市場では水産加工品・発酵食品の直売が中心です。蔵元見学は珠洲の宗玄酒造など要予約の例があります。金沢のヤマト糀パークなど、能登以外でも石川の発酵文化を学べる施設があります。能登地方は復旧途上のため、営業時間・休館・体験の可否は必ず直前に公式情報で確認してください。

写真クレジット:
石川の冬の味覚・かぶら寿し — Ttaakkaco(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
日本の伝統的な糠漬け — DoWhile(Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0)

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