石川県の伝統的な郷土玩具は、加賀の職人技が光る手仕事の宝庫。転んでも起き上がる加賀八幡起上り(金沢市)、米食いねずみ(金沢市)、加賀獅子頭(金沢市・白山市)など、縁起物として愛される玩具は北陸ならではのお土産です。
金沢・加賀地方には、前田藩の庇護のもとで育まれた愛らしい郷土玩具が今も息づいています。加賀八幡起き上がり、米食いねずみ、加賀獅子頭——いずれも手仕事の温もりと、子どもの健やかな成長や家内安全を願う祈りが込められた伝統の品々です。金沢を訪れた際には、これらの郷土玩具を手に取り、加賀百万石の文化の奥深さに触れてみてはいかがでしょうか。お土産としても喜ばれる、石川県ならではの工芸品の魅力をご紹介します。
目次
加賀八幡起き上がりの由来と魅力

加賀八幡起上りは、金沢を代表する郷土玩具のひとつです。加賀に一国一社の八幡宮が鎮座していたころ、その社前に住む有徳の翁が、八幡さま(祭神・応神天皇)が生まれたときに真紅の錦で包まれたという産着姿になぞらえ、子どもたちの育成と多幸を祈って作り与えたのが始まりと伝えられています。「何度倒しても起き上がる」という縁起の良さから、子どもの健やかな成長と無病息災を願うお守りとして大切にされてきました。
卵形の丸みを帯びた愛らしいフォルムは、木型に和紙を張り重ねた張り子づくりです。貝殻を砕いた胡粉で下塗りし、朱を塗り、松竹梅を描いて仕上げます。底に重りが入っているため、指で押しても必ず元の姿勢に戻ります。昭和30年度の年賀記念切手の図案に選ばれ、石川県の観光PRマスコット「ひゃくまんさん」のモチーフにもなりました。金沢では出産祝いや初節句の贈り物として今も愛されており、金沢の伝統工芸めぐりのなかでも人気の高い工芸品です。近年はモダンなアレンジを加えた作品も登場し、インテリアとしても注目を集めています。
米食いねずみの仕掛けと加賀の遊び心

加賀の郷土玩具のなかでもひときわユニークなのが「米食いねずみ」です。台に取り付けられた竹ひごを押すと、ねずみが頭と尻尾を下げ、皿に置かれた米をついばむように動く——そんな素朴で愛嬌のある仕掛け玩具です。1830年頃、加賀藩の足軽小者の手内職として、当時流行したからくり人形の影響を受けて作られたのが始まりとされ、これを賞玩するとお金が増えると伝えられてきました。昭和35年度の年賀切手の図案にも選ばれています。
材料は木と竹だけ。電池もゼンマイも使わず、竹ひごの弾みだけで動きを生み出すこのからくりは、加賀の職人の遊び心と技術力の結晶といえるでしょう。ほぼ同じ頃に生まれた「もちつき兎」は、台の下の糸を引くと兎が杵を振り上げて餅をつく仕掛けで、米食いねずみと対になる郷土玩具として親しまれてきました。同じ石川県の木の手仕事としては、山中漆器の木地挽きも知られています。
加賀獅子頭の迫力と祭り文化
加賀獅子頭は、金沢の祭り文化を象徴する郷土玩具です。加賀藩では武芸奨励の一環として獅子舞が盛んに行われ、その獅子頭を模した玩具が庶民の間に広まりました。祭りで使われる獅子頭は、両眼が鋭く左右に広がった「八方にらみ」と呼ばれる風貌に、一角・牙・大きな耳を備え、他地方のものに比べて大きいのが特色です。
加賀獅子舞は「殺し獅子」とも呼ばれ、棒振りと呼ばれる武者が獅子を退治するという勇壮な筋立てが特徴です。この加賀藩独自の獅子舞文化を反映した獅子頭の玩具は、魔除け・厄除けのお守りとして家に飾られてきました。白山麓の桐を一木彫りにした獅子頭は、漆を塗り本金箔を施した精緻な作りのものから、手のひらサイズの可愛らしいミニチュアまで、さまざまなサイズが販売されています。加賀の伝統行事と祭りや加賀鳶と合わせて、加賀藩の勇壮な文化に触れることができます。
加賀の郷土玩具を購入できるお店・工房
加賀の郷土玩具を確実に手に入れられるのは、作り手の店と工房です。金沢では中島めんや本店(近江町いちば館地下/9:00〜18:00・火曜定休/TEL 076-232-1818)が加賀八幡起上り・米食いねずみ・加賀獅子頭を製造販売しており、石川県観光物産館2階、香林坊大和6階、金沢エムザ黒門小路、金沢クラフト広坂、小松空港2階でも取り扱いがあります。加賀獅子頭は、白山市八幡町の知田工房(9:00〜17:00・火曜定休/TEL 076-272-1696)が木彫の加賀獅子頭を手がける専門工房で、オンラインショップのほか工房での見学・体験も受け付けています。長町武家屋敷跡にほど近い老舗記念館は町民文化を伝える展示施設なので、購入や制作の体験が目的なら上の店舗・工房を訪ねてください。
中島めんやは文久2年(1862年)の創業で、はじめは村芝居に使う面や小道具を作り、明治期から加賀の郷土玩具と人形を手がけるようになった老舗です。価格帯は、加賀八幡起上りが最小サイズ990円(ストラップは770円)から、桐ケース入りのペアで34,100円まで。米食いねずみは1,320円、加賀獅子頭は1,430円からで、金沢の金箔を貼った本金箔仕上げの獅子頭は17,160円からと、予算に応じた選び方ができます。ひがし茶屋街周辺の工芸品店でも、ミニチュアの獅子頭や小さな起上りが見つかることがあります。
自分で絵付けをして持ち帰る体験も用意されています。中島めんや本店の加賀八幡起上り絵付け体験は10:00〜16:00(火曜定休)、所要30〜60分で〈小〉800円・〈大〉1,000円(いずれも材料費込・税別、要予約)。兼六園桂坂口前の石川県観光物産館では手描き体験が1,400円(税込・材料費込)で、通常は毎日11:00〜16:00(15:00受付終了)、個人は予約不要です。知田工房では手彫りの加賀獅子頭「根付け」に絵付けする体験が1人4,400円(税込・所要30分〜)で、白山市観光連盟(TEL 076-259-5893)への事前予約制、2〜20名・小学4年生から参加できます。
加賀の郷土玩具と金沢の伝統工芸
加賀の郷土玩具は、加賀友禅や九谷焼、加賀水引と並ぶ金沢の伝統工芸のひとつに位置づけられています。加賀藩は学問と文化を重んじる藩風を持ち、前田家歴代の藩主が工芸を手厚く保護したことで、金沢には多彩な伝統工芸が花開きました。郷土玩具もまた、その文化的土壌のなかで育まれた芸術品なのです。
石川県立伝統産業工芸館(いしかわ生活工芸ミュージアム)では、加賀八幡起き上がりをはじめとする郷土玩具の歴史や製造工程を学ぶことができます。また、金沢の茶の湯文化とも深い関わりがあり、茶席の場に飾る縁起物として郷土玩具が用いられることもあります。伝統を守りながらも時代に合わせて進化する加賀の郷土玩具は、金沢観光のお土産としてだけでなく、日本の手仕事文化を象徴する存在として、国内外から高い評価を受けています。
加賀の郷土玩具にまつわる周辺の見どころ
加賀の郷土玩具に興味を持ったら、ぜひ金沢市内の関連スポットも巡ってみましょう。長町武家屋敷跡にほど近い老舗記念館は、薬種商・中屋薬舗の店舗を移築した金沢市の展示施設で、藩政期の店先を伝える「みせの間」や工芸菓子、年3回入れ替わる「金澤老舗百年展」から、町民文化と職人技の関わりを感じることができます。金沢駅・鼓門周辺には伝統工芸を扱うショップが集まり、お土産探しに最適です。
兼六園の散策後に石川県立美術館や石川県立歴史博物館を訪れれば、加賀藩の文化や工芸の全体像をより深く理解できるでしょう。また、金沢城公園からひがし茶屋街へと続く散策ルートでは、途中に工芸品を扱うギャラリーや土産物店が点在しており、加賀の郷土玩具を探しながらの街歩きを楽しめます。金沢の和菓子とともに、加賀文化の手仕事の美をお持ち帰りください。
加賀の郷土玩具へのアクセス・購入情報
アクセス
| 電車(東京から) | 北陸新幹線で金沢まで最速約2時間30分 |
| 電車(大阪から) | 特急サンダーバードで敦賀まで約1時間20分、敦賀で北陸新幹線に乗り換えて金沢まで通しで約2時間30分(2024年3月の敦賀延伸により、サンダーバードは大阪〜敦賀間の運転になり、金沢へは直通しません) |
| バス(金沢駅から) | 路線バスや城下まち金沢周遊バスで、長町武家屋敷跡エリアやひがし茶屋街へ移動可能 |
| 老舗記念館へ | JR金沢駅東口バスのりばから北鉄バス「香林坊」下車、徒歩5分。ふらっとバス(長町ルート)なら「老舗記念館」下車 |
| 中島めんや本店へ | 近江町いちば館地下。北鉄バス「武蔵ヶ辻・近江町市場」下車すぐ |
| 知田工房(白山市)へ | 白山市八幡町98。TEL 076-272-1696(9:00〜17:00・火曜定休) |
| あんと(金沢駅構内)へ | 改札を出てすぐ |
| 駐車場 | 老舗記念館に駐車場はなく、近隣の有料駐車場を利用(長町観光駐車場から徒歩1分) |
老舗記念館の入館料は一般100円(高校生以下無料)で、開館は9時30分から17時(入館は16時30分まで)、月曜休館です。金沢駅構内の「あんと」はショッピングが8時30分から20時までの営業で(店舗により異なります)、加賀八幡起上りをかたどった最中などの菓子が買えるため、旅の行き帰りに立ち寄りやすいのが魅力です。郷土玩具は軽量でかさばらないため、お土産として持ち帰りやすい点もおすすめのポイントです。
写真クレジット:
加賀八幡起き上がり(石川県立伝統産業工芸館展示) — Daderot(Wikimedia Commons / CC0)
日本の郷土玩具を描いた木版画 — Yamashita Hakuba(Wikimedia Commons / CC0)
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