「山中の温泉、有馬・草津に次いで扶桑三名湯のひとつ」と松尾芭蕉が称えた山中温泉は、加賀温泉郷の中で最も山深い場所に湧く風光明媚な温泉地です。大聖寺川が刻んだ鶴仙渓の渓谷美、総ひのき造りのこおろぎ橋とS字型のあやとりはし、芭蕉ゆかりの共同浴場「菊の湯」、そして安土桃山時代から続く山中漆器の工芸文化——温泉と自然と文化が一体となった、北陸を代表する温泉地です。

山中温泉の歴史と芭蕉ゆかりの名湯

山中温泉の温泉街と大聖寺川の渓流
山中温泉の温泉街(Photo: Suikotei / CC BY-SA 4.0)

山中温泉の開湯は奈良時代の養老年間(717〜724年)、行基が白鷺に導かれて発見したと伝えられています。元禄2年(1689年)、「おくのほそ道」の旅の途中で山中温泉を訪れた松尾芭蕉は約9日間にわたって逗留しました。芭蕉はこの地の湯をいたく気に入り、「山中や菊は手折らじ湯の匂い」の句を詠み、有馬・草津と並ぶ「扶桑三名湯」のひとつと称えました。

泉質カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉(無色透明)
泉温約42℃(源泉)
pH8.7(アルカリ性)
主な効能疲労回復・神経痛・筋肉痛・関節炎・切り傷・美肌効果
特徴無色透明でなめらかな肌触り。「美肌の湯」として知られ、入浴後に肌がしっとりすると評判

菊の湯 — 芭蕉も浸かった総湯(共同浴場)

山中温泉の総湯・菊の湯と山中座の外観
山中温泉・総湯「菊の湯」と山中座(Photo: Namazu-tron / Public domain)

温泉街の中心に立つ共同浴場「菊の湯」は、1300年の歴史を誇る山中温泉のシンボルです。男湯と女湯が別棟になっているのが特徴で、男湯は「山中座」と合棟の堂々たる建物。地元の人々が日常的に使う社交場であり、旅人も気軽に立ち寄れます。

入浴料大人500円 / 小学生200円
営業時間男湯:6:30〜22:00 / 女湯:7:00〜22:00
定休日第2・第4木曜日(祝日の場合は翌日)
設備シャワー・カランなし(昔ながらの「湯浴み」スタイル)
山中座男湯棟に併設。観光案内所・休憩スペースとして利用可

こおろぎ橋とあやとりはし — 鶴仙渓の三橋

山中温泉のシンボルこおろぎ橋は、鶴仙渓に架かる総ひのき造りの橋(2019年に架け替え・4代目)です。白木が渓谷の緑に映え、特に紅葉シーズンは息をのむ絶景。橋の名の由来は「行路が険しい(行路危)」が転じたとも、秋にコオロギの鳴き声が響くからとも言われています。

中流に架かるあやとりはしは、華道家・勅使河原宏がデザインした長さ94.7mのS字型歩行者専用橋。鮮やかなフォルムと渓谷の自然が対比する現代アート的な橋で、橋上からの眺めは山中温泉随一の絶景ポイントです。

詳しい散策ルート・川床・各橋の情報は鶴仙渓ガイドをご覧ください。

山中漆器 — 安土桃山時代から続く伝統工芸

山中温泉周辺の豊かな自然と集落の風景
山中温泉周辺の自然と集落(Photo: Suikotei / CC BY-SA 4.0)

山中温泉は山中漆器の産地としても全国に知られています。安土桃山時代に越前の轆轤師を招いたことに始まり、「木地の山中」と称されるほど木地挽きの技術は卓越しています。現在も全国の漆器生産量の多くを占め、木目の美しさを活かした椀・盃・茶器は旅の土産として人気です。

温泉街には漆器のギャラリーや工房が点在し、ろくろ絵付け体験(1,500円〜、要予約)も楽しめます。職人の技を間近に見学できる工房ツアーを実施しているところもあります。

山中温泉の食 — 加賀料理と山中節

山中温泉の旅館では、能登・加賀の山海の幸を使った加賀料理が楽しめます。冬(11月〜3月)は加能がに・越前がにのシーズンで、かに料理付き宿泊プランは人気のため早めの予約が必要です。夏は鮎の塩焼き、秋は松茸など旬の食材が宿の料理を彩ります。

温泉街では加賀棒茶(茎ほうじ茶)や地元の和菓子も人気。また、山中温泉は山中節(日本三大民謡のひとつ)の発祥地でもあり、毎年9月の「お湯まつり」では芭蕉を偲ぶ句会や山中節の踊りが温泉街を彩ります。

1泊2日モデルプラン

1日目 午後加賀温泉駅 → 山中温泉着 → 鶴仙渓散策(こおろぎ橋〜川床〜黒谷橋、約60分)→ 旅館チェックイン → 夕食(加賀料理・かに)
2日目 午前旅館で朝食・朝湯 → 菊の湯に立ち寄り → 山中漆器工房・ギャラリー見学(体験は要予約)
2日目 午後那谷寺(紅葉シーズンなら特におすすめ)→ 山代温泉・加賀温泉駅へ

季節別の楽しみ方

春(4〜5月)鶴仙渓の新緑と桜。川床オープン(4月〜)。観光客が少なく落ち着いた旅ができる。
夏(6〜8月)川床でのスイーツが最盛期。夕方の温泉街散策が涼しく快適。鮎料理が旬。
秋(9〜11月)お湯まつり(9月)、鶴仙渓の紅葉(11月上旬〜中旬)が絶景。
冬(12〜3月)加能がに・越前がに料理が最盛期。雪見露天風呂と雪化粧したこおろぎ橋が幻想的。

山中温泉へのアクセス・基本情報

所在地石川県加賀市山中温泉
電車+バス北陸新幹線「加賀温泉駅」から加賀周遊バス「Canbus」で約30分
北陸自動車道 加賀ICから約20分 / 金沢市内から約70分
駐車場山中温泉総湯駐車場(無料・約100台)、こおろぎ橋周辺にも駐車場あり
共同浴場菊の湯(大人500円)
ベストシーズン紅葉(11月上旬〜中旬)、かに(12〜3月)

山中温泉の周辺観光スポット

  • 鶴仙渓 — 三つの橋と川床、鶴仙渓散策の完全ガイド
  • 加賀温泉郷 — 山代・山中・片山津の三湯めぐりガイド
  • 那谷寺 — 奇岩遊仙境と紅葉の名刹(車で約20分)
  • 山代温泉 — 古総湯・湯の曲輪・魯山人ゆかりの地(車で約15分)
  • 片山津温泉 — 柴山潟越しの白山絶景(車で約15分)
  • 山中漆器 — 山中漆器の歴史と工房・体験ガイド

写真クレジット:
山中温泉の温泉街 — Suikotei(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
菊の湯と山中座 — Namazu-tron(Wikimedia Commons / Public domain)
山中温泉周辺の自然 — Suikotei(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)

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わっか北陸編集部
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HOKURIKU TRAVEL GUIDE
石川・富山・福井の北陸3県を専門に取材する観光メディア「わっか北陸」の編集部。地元ライターによる現地取材と最新情報をもとに、旅行者に役立つガイドを発信しています。