山代温泉は石川県加賀市に湧く、開湯約1300年の歴史を誇る北陸屈指の名湯です。加賀温泉郷の中で最大規模を誇り、明治時代の浴場を忠実に再現した古総湯、美食家・芸術家として名高い北大路魯山人が若き日に逗留した地でもあります。共同浴場を中心に旅館や商店が環状に並ぶ「湯の曲輪(ゆのがわ)」の独特な街並みは、日本の温泉文化の粋を今に伝えています。

山代温泉の歴史と泉質

山代温泉の風情ある温泉街の街並み
山代温泉・湯の曲輪周辺の温泉街(Photo: Asturio Cantabrio / CC BY-SA 4.0)

山代温泉の開湯は神亀2年(725年)、僧・行基がこの地で霊泉を発見したことに始まると伝えられています。平安時代には明覚上人が温泉寺を開き、以来、加賀藩ゆかりの湯治場として繁栄。江戸時代から多くの文人・藩士が訪れ、近代には北大路魯山人をはじめ著名な芸術家たちにも愛されてきました。

源泉は複数あり、豊富な湯量が特徴です。加賀温泉郷のなかでも最も大きな温泉地で、旅館・ホテルの数も随一。温泉街全体に源泉が引かれ、宿ごとに異なる湯使いを楽しめます。

泉質ナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物泉
泉温約68℃(源泉)
pH8.1(弱アルカリ性)
主な効能神経痛・筋肉痛・関節痛・冷え性・疲労回復・美肌効果
特徴保温効果が高く入浴後も体が温かい状態が続く。肌がなめらかになる「美人の湯」としても知られる

古総湯 — 明治時代にタイムスリップする浴場

山代温泉の古総湯の夜景
山代温泉・古総湯の夜景(Photo: 掬茶 / CC BY-SA 4.0)

古総湯(こそうゆ)は、明治時代の総湯を忠実に復元した山代温泉のシンボル的存在です。外観は洋風木造2階建て、室内には色とりどりのステンドグラスが嵌め込まれ、光が差し込む浴室はまるで美術館のよう。床や壁には九谷焼のタイルがあしらわれ、加賀の工芸文化と温泉が融合した唯一無二の空間です。

シャワーやカランは設置されておらず、昔ながらの「湯浴み」スタイルで入浴します。「湯船に浸かり、体を拭いて上がる」という明治時代の入浴作法を体験できる、全国でも珍しい温泉施設です。2階の休憩スペースでは、湯上がりに縁側からの眺めを楽しみながらのんびりくつろげます。

入浴料大人500円 / 小学生200円
営業時間6:00〜22:00(最終受付21:30)
定休日第4水曜日(祝日の場合は翌日)
設備シャンプー・カラン類なし(タオル・石けんは持参か館内購入)
2階休憩室入浴者は無料で利用可

総湯 — 地元と交流できる現代の共同浴場

山代温泉総湯の夜のライトアップ風景
山代温泉・総湯の夜景(Photo: 掬茶 / CC BY-SA 4.0)

古総湯の隣に立つ総湯は、現代的な設備を備えた共同浴場です。シャワーやカランが整い、シャンプー類も利用可能。地元の方々が日常的に通う社交場でもあり、旅人と地元住民が自然と交流できる温かい雰囲気があります。

2つの浴場はほぼ隣接しているため、「古総湯で明治の湯を体験してから、総湯でゆっくり洗い流す」というはしご入浴も人気です。それぞれの個性を味わい比べるのが、山代温泉の通な楽しみ方です。

入浴料大人490円 / 小学生200円
営業時間6:00〜22:00(最終受付21:30)
定休日第4水曜日(祝日の場合は翌日)
設備シャワー・カラン・ドライヤーあり。シャンプー類は持参推奨

湯の曲輪 — 日本唯一の環状温泉街を歩く

湯の曲輪(ゆのがわ)とは、古総湯・総湯を中心として旅館・飲食店・土産物店が環状に取り囲む、山代温泉独自の街並みです。江戸時代から続く温泉街の形態で、全国でもほとんど例を見ない希少な都市構造です。

石畳の小路を歩けば、昔ながらの旅館建築や九谷焼を扱うギャラリー・工房が点在します。夜はライトアップされた古総湯と周辺の温泉宿が幻想的な雰囲気を醸し出し、湯上がりの散策に最適です。散策の所要時間はゆっくり歩いて30〜45分程度。

湯の曲輪から徒歩5分ほどの場所には薬王院温泉寺があります。平安時代の開基で、山代温泉の守護寺として長い歴史を持つ古刹です。温泉街の散策と合わせてぜひ立ち寄ってみてください。

北大路魯山人ゆかりの地 — いろは草庵

書・篆刻・陶芸・料理と多才な才能を発揮した北大路魯山人は、大正4年(1915年)に山代温泉の旅館「吉野屋」に逗留しました。滞在費の代わりに旅館の看板や食器などの刻字を手がけ、この経験が九谷焼との出会いとなり、後の陶芸活動に大きな影響を与えたとされています。

魯山人が実際に暮らした建物は「魯山人寓居跡 いろは草庵」として保存・公開されています。書斎や居室を見学でき、魯山人が山代で手がけた作品も展示されています。美食・芸術に通じる方はもちろん、温泉観光の合間に立ち寄る文化スポットとしておすすめです。

名称魯山人寓居跡 いろは草庵
入館料大人560円 / 中高生410円 / 小学生300円
開館時間9:00〜17:00(最終入館16:30)
休館日水曜日(祝日の場合は翌木曜日)・年末年始
所在地石川県加賀市山代温泉18-5(古総湯から徒歩約3分)

山代温泉と九谷焼・加賀の食文化

山代温泉周辺は九谷焼の主要産地のひとつです。温泉街には九谷焼のギャラリーや工房が点在し、絵付け体験(要予約・1,500円〜)も楽しめます。北大路魯山人も九谷焼に深く関わった地だけあり、伝統と現代アートが融合した作品を数多く目にできます。

食の面では加賀料理が旅の大きな楽しみです。旬の山海の幸を使った繊細な料理が九谷焼の器に盛られる光景は、見た目にも美しく。冬(11月〜3月)は越前がに・加能がにのシーズンで、かに料理付き宿泊プランは早めの予約が必要なほど人気です。

湯上がりには、温泉街の甘味処で加賀棒茶(茎ほうじ茶)やあんころ餅を味わうのが定番。片山津・山中の銘菓も温泉街のみやげ店で手に入ります。

季節別の楽しみ方

春(3〜5月)湯の曲輪周辺の桜並木。温泉寺の春祭り。観光客が少なく混雑を避けた訪問に最適。
夏(6〜8月)ゆかた祭り・夏の夜祭り(8月)。夜の古総湯ライトアップが幻想的。
秋(9〜11月)菊まつり(10月)。近隣の那谷寺の紅葉(10〜11月)が絶景。
冬(12〜3月)かに料理の最盛期。雪が積もった湯の曲輪の幻想的な雪景色と露天風呂。

加賀温泉郷の三湯めぐり

山代温泉は加賀温泉郷の拠点として、山中温泉片山津温泉と合わせた「三湯めぐり」も人気です。各温泉地は車で10〜15分圏内にあり、半日で三湯すべての日帰り入浴が可能。加賀温泉観光局が発行する「湯めぐりパスポート」(各観光案内所で販売)を使えばお得に巡ることができます。

  • 山中温泉 — 芭蕉ゆかりの名湯・鶴仙渓の渓谷美(車で約15分)
  • 片山津温泉 — 柴山潟越しに白山を望む湖畔の湯(車で約15分)
  • 粟津温泉 — 開湯1,300年・北陸最古の湯(車で約15分)

山代温泉へのアクセス・基本情報

所在地石川県加賀市山代温泉
電車北陸新幹線「加賀温泉駅」下車(東京から約2時間半・大阪から約1時間半)
バス加賀温泉駅から加賀周遊バス「Canbus」で約10分(運賃200円 / 1日フリーパス1,200円)
北陸自動車道「加賀IC」から約15分
駐車場湯の曲輪周辺に無料公共駐車場あり(合計約200台)
金沢から車で約50分 / JR+バスで約60分
問い合わせ山代温泉観光協会(加賀市観光交流機構)

山代温泉の周辺観光スポット

  • 那谷寺 — 奇岩と境内が一体となった「奇岩遊仙境」。秋の紅葉が絶景(車で約10分)
  • 鶴仙渓 — 山中温泉の渓谷美とあやとり橋(車で約15分)
  • 加賀温泉郷ガイド — 山代・山中・片山津の三湯をまとめて紹介
  • 大聖寺と九谷焼 — 九谷焼の産地・大聖寺の見どころ(車で約15分)
  • 兼六園 — 日本三名園のひとつ(車で約50分)

写真クレジット:
山代温泉・温泉街の街並み — Asturio Cantabrio(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
山代温泉・古総湯の夜景 — 掬茶(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
山代温泉・総湯の夜景 — 掬茶(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)

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わっか北陸編集部
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HOKURIKU TRAVEL GUIDE
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