石川・北陸の食文化を語るうえで欠かせない発酵食。冬の保存食として生まれたかぶら寿し・ふぐの子糠漬け・いしる(魚醤)は、独特の旨味と深い風味が特徴。金沢の市場や老舗の食料品店で購入でき、老舗の体験教室では試食を交えて漬け込みを学べます(要予約)。

金沢・石川は日本有数の発酵食の宝庫です。冬の寒さと湿気がもたらす独特の気候風土は、発酵食品づくりに最適な環境を生み出しました。かぶら寿しやふぐの子糠漬けといった個性豊かな郷土の味から、能登の魚醤「いしる」まで、石川の発酵食文化は多彩で奥深いものがあります。冬の保存食から生まれた知恵と美味しさ、そして購入できるスポットをご紹介します。

かぶら寿し — 金沢の冬を代表する発酵食品

近江町市場の食品売り場 — 金沢の発酵食品が並ぶ
近江町市場にはかぶら寿しなど石川の発酵食品が並ぶ(Photo: 投稿者 / CC BY-SA 4.0)

金沢の発酵食文化を語るうえで欠かせないのが「かぶら寿し」です。寿しと名がつきますが、酢飯を使った寿司とは異なります。厚切りにしたかぶら(蕪)にブリの切り身を挟み、米麹でじっくりと漬け込んで発酵させた、いわば「なれずし」の一種です。

かぶら寿しの仕込みは晩秋に始まります。塩漬けにしたかぶらに脂の乗った寒ブリを挟み、にんじんや昆布とともに米麹の床に漬け込みます。低温でゆっくりと発酵が進み、農林水産省「うちの郷土料理」によれば本漬けは7〜10日ほどで漬け上がります(ブリの塩漬けに約40日、かぶらの塩漬けに約1週間と、下ごしらえを含めれば長い工程です)。米麹の甘みとブリの旨味、かぶらのシャキシャキとした食感が渾然一体となった味わいは、まさに冬の金沢の味覚です。お正月のお祝いの席には欠かせない一品で、加賀料理の前菜としても供されます。近江町市場では冬季限定で販売されており、お土産としても人気があります。

ふぐの子糠漬け — 猛毒を発酵で無毒化する金沢・石川の奇跡の食品

日本の伝統的な漬物 — 石川の発酵保存食文化
日本の伝統的な漬物。石川では糠漬けや麹漬けが特に発展した(Photo: Flickr user / CC BY-SA 2.0)

石川県の発酵食品で最も驚くべき存在が「ふぐの子糠漬け」です。ふぐの卵巣には猛毒のテトロドトキシンが含まれていますが、農林水産省「うちの郷土料理」によれば、卵巣を約半年から1年かけて塩漬けにし、水洗いしたうえで米麹・糠・唐辛子と魚醤のいしるとともに漬け込む——塩と糠で3年ほどかけて発酵させる工程を経て、毒が抜けます。毒が塩水と糠に拡散して平均化するという説や、発酵中の微生物が分解するという説がありますが、メカニズムはいまだ解明されていません。昭和58年の食品衛生法改正でふぐの内臓は廃棄が原則となりましたが、石川県では江戸時代から続く伝統産業であることや過去に一度も事故がないことから製造が認められており、県内でも許可を受けた限られた生産者だけが手がけています。主な製造地は金沢市の金石・大野のほか、旧美川町(現・白山市)と輪島市です。

味わいは濃厚そのもの。糠の風味と魚卵のコクが合わさり、薄くスライスしてそのままお酒の肴にしたり、ご飯のお供にしたり、パスタのソースに使ったりと楽しみ方はさまざまです。石川を訪れたら一度は試していただきたい珍味で、金沢市内の発酵食品専門店や近江町市場の漬物店で購入できます。

大根寿し・こんか漬け — 金沢の多彩な発酵保存食

かぶら寿しと並んで冬の金沢で親しまれているのが「大根寿し」です。大根にニシンを挟んで米麹で漬けるもので、かぶら寿しに比べて庶民的で素朴な味わいが特徴です。かぶら寿しがブリを使う高級品であるのに対し、大根寿しは昔から家庭の味として広く作られてきました。

「こんか漬け」は魚を米糠に漬け込んで発酵させた保存食で、「こんか」とは糠(ぬか)の方言です。サバやイワシ、ブリなどの魚を塩漬けにした後、糠床でじっくり漬け込みます。そのまま薄切りにして食べるほか、軽く炙ると糠の香ばしさが引き立ちます。日本酒との相性は抜群で、加賀野菜と合わせた料理も絶品です。

いしる(魚醤)と金沢の発酵食文化のつながり

石川の発酵食文化を支えるもうひとつの柱が、能登の魚醤「いしる・いしり」です。イカの内臓やイワシを塩漬けにして1〜2年かけて発酵させた調味料で、深い旨味とコクのある味わいが特徴です。能登の「いしる鍋」は冬の名物料理ですが、金沢の料理店でも隠し味として広く使われています。

こうした発酵食品が石川で発展した背景には、長い冬を乗り越えるための保存の知恵があります。雪に閉ざされる北陸の冬に備え、秋から初冬にかけて食材を塩や糠、米麹に漬け込む——この営みが何百年もの歳月をかけて洗練され、今日の石川の豊かな発酵食文化を形づくりました。

金沢で発酵食品を購入・体験できるスポット

金沢市内で発酵食品を購入するなら、近江町市場がまず挙がります。かぶら寿しやこんか漬け、ふぐの子糠漬けなど、石川の発酵食品を一堂に見られる漬物店や食品店が軒を連ねています。ただし試食の可否は店舗ごとに異なり、市場として案内しているものではありません。味を確かめてから買いたいときは、店頭で各店に尋ねてください。物販店の営業時間は概ね9時〜17時(飲食店は概ね11時〜17時)ですが店舗により異なり、水曜日と日曜日に休む店も一部あります。

「買う」だけでなく「漬ける」体験もできます。金沢市弥生の老舗「四十萬谷本舗」本店では、漬物の試食と発酵の話を交えた体験教室を開催しています。かぶら寿し体験教室は11月と1月〜3月の開催で、料金はひとり6,600円(税込)、所要1時間〜1時間30分。開始は10時30分または13時30分で、開催予定日のうち5名以上の参加希望があった場合に開催されるため、予約サイトまたは電話(076-241-3122/受付9:00〜18:00・日曜定休)での事前予約が必要です。4月〜10月は「糀のお漬物づくり体験」(6月23日〜7月31日を除く)と「ぬか漬け体験教室」があり、いずれもひとり3,300円(税込)・所要約1時間で、開催日の4日前までに申し込みます。漬物を試食しながら発酵の話を聞くだけのコース(ひとり1,500円・税込、5名以上で開催)も用意されています。開催日や実施状況は変わることがあるため、公式サイトで確認してください。

また、金沢駅構内のお土産エリアにも発酵食品のコーナーがあり、真空パックされた商品は持ち帰りやすくなっています。かぶら寿しは11月〜2月頃の季節商品で、年の暮れが近づくと店頭に並びます。ふぐの子糠漬けは仕込みに3年ほどかかる長期熟成品ですが、店頭での取り扱いや在庫は店舗ごとに異なります。目当てのものがある場合は、購入前に各店へご確認ください。発酵が生み出す複雑な旨味は、一度味わうと忘れられない金沢の味となるでしょう。


写真クレジット:
かぶら寿し — 投稿者(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
近江町市場 — Flickr user(Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0)
漬物 — Sue Le(Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0)

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