福井県は清らかな水と良質な米に恵まれた日本酒の名産地です。全国的に高い評価を受ける「黒龍」をはじめ、「梵」「花垣」「一本義」など個性豊かな銘柄が揃い、日本酒ファンにとっては宝の山のようなエリアです。白山を源とする九頭竜川水系の伏流水と福井県産の酒米が生み出す日本酒の魅力、そして蔵ごとに異なる訪問の可否をご紹介します。
目次
福井の日本酒の特徴 — 白山の伏流水と酒造好適米
福井の日本酒を支えているのは、白山を源とする九頭竜川水系の伏流水です。九頭竜川・足羽川・日野川といった清流と各地の湧水が、酒造りに適した軟水を蔵に届けています。水の硬さは蔵ごとに異なり、たとえば勝山市の一本義久保本店は硬度27mg/Lという超軟水を仕込み水に使っています(硬度60mg/L未満が軟水)。硬度の低い水は、やわらかな口あたりの酒を生む源となります。
福井県では酒造好適米「五百万石」の栽培が盛んで、JAテラル越前が育成・品種登録した「越の雫」も使われています。そして福井県が独自に育成した酒米が「さかほまれ」です。福井県農業試験場が約8,000種の候補から選抜した「山田錦」と「越の雫」の交配品種で、山田錦と同等の溶解性を持ち、精米歩合50%以下に磨いて使われます。2019年に栽培が始まり、2021年に商品化されました。県食品加工研究所は、さかほまれに合わせて福井県オリジナルの新酵母「FK-801C」「FK-802」も開発しています。
黒龍酒造 — 福井が誇る全国屈指の名醸
永平寺町にある黒龍酒造は、文化元年(1804年)創業の老舗蔵元です。日本酒ファンの間では「黒龍」の名は知らない人がいないほどの名声を誇り、「石田屋」「二左衛門」「しずく」などのプレミアム銘柄は入手困難な人気酒として知られています。
黒龍酒造が掲げるのは「良い酒をつくる」というシンプルな理念。九頭竜川の伏流水と厳選された酒米を用いた酒造りを続けています。2022年6月には、永平寺町下浄法寺の九頭竜川沿いに複合施設「ESHIKOTO(えしこと)」を開業しました。発酵・熟成を行う「臥龍棟(がりゅうとう)」と、酒や食事を楽しめる「酒樂棟(しゅらくとう)」に分かれ、臥龍棟は通常見学できません。なお黒龍酒造では酒蔵見学を行っておらず、酒蔵に隣接する直営小売店「石田屋」(10時〜16時30分/日曜定休、ほかに不定休あり。えちぜん鉄道松岡駅から徒歩約6分)で購入できます。試飲を楽しみたい場合は、後述のESHIKOTO内にある「石田屋 ESHIKOTO店」の有料テイスティングを利用してください。永平寺の参拝と合わせて訪れるのがおすすめです。

梵(加藤吉平商店)— 世界が認めた福井の酒
鯖江市にある加藤吉平商店が醸す「梵(BORN)」は、海外でも高い評価を受ける福井の銘酒です。完全無添加の純米酒だけを造る蔵で、兵庫県特A地区産の契約栽培山田錦と福井県産の「五百万石」「さかほまれ」だけを使い、蔵内の自社酵母で仕込みます。国賓の歓迎晩餐会をはじめとする国際イベントの乾杯酒に指名され、現在は世界118カ国へ輸出、多くの在外公館で公式行事の晩餐酒として使われています。
梵の特徴は、すべての酒を短くても1年、長いものは10年以上マイナスの温度で寝かせる「氷温熟成」にあります。本物の旨さが乗ってから出荷するという考え方で、角の取れたまろやかな味わいが生まれます。「梵・ゴールド」は山田錦を50%まで磨いた無濾過の純米大吟醸で、淡い黄金色と透き通るような香り、さわやかで存在感のある味わいが持ち味です。加藤吉平商店は公式サイトで蔵見学・試飲の案内を行っていませんが、蔵に併設された小売店舗(平日・土曜9時〜18時/日曜・祝日休、年始・旧盆に不定休)で購入できます。
花垣(南部酒造場)と一本義 — 奥越前の地酒
大野市の南部酒造場が醸す「花垣」「米しずく」は、名水の城下町・大野の水で仕込まれた地酒です。市内の湧水「御清水(おしょうず)」は1985年に環境庁の名水百選に選ばれており、大野はこうした湧水に恵まれた街。南部酒造場は1901年に6代目が酒造りを始めた蔵で、酒蔵5棟が登録有形文化財に登録されています。有機栽培米や復活栽培させた幻の酒米「亀の尾」を使った酒造り、熟成古酒の研究にも取り組んでいます。七間通り沿いの「花垣小売店」は9時〜17時(毎週水曜定休。祭日および10・11・12月を除く。年末年始は休業)。店頭では蔵がおすすめする5〜6種類程度を常時試飲できます。
勝山市の一本義久保本店が醸す「一本義」も奥越前を代表する銘柄です。明治35年(1902年)創業で、限定流通酒「伝心」も手がけています。奥越前の湿潤厳冬という風土と、福井のオリジナル酒米「越の雫」「さかほまれ」を活かした酒造りが持ち味。「越の雫」の辛口酒は越前がになど塩味の料理と好相性で、越前そばとも合わせやすい食中酒です。酒蔵見学は受け付けていませんが、本社正面の直営販売店「勝山酒舗」(平日9時〜18時、土・日・祝休)で購入できます。

福井の酒蔵見学と試飲体験
福井県内には約30の酒蔵がありますが、蔵そのものの見学を行っていない蔵が少なくありません。黒龍酒造、一本義久保本店、田嶋酒造(福千歳)は、いずれも酒蔵見学を行っていないことを公表しており、加藤吉平商店(梵)も公式サイトに蔵見学の案内はありません。見学を受け付けている蔵のひとつが福井市の舟木酒造(「北の庄」)で、酒蔵と製造工程を約40分・見学料300円で見学でき、利き酒コーナーで試飲もできます。当日申し込みも可能ですが、事前の申し込みが確実です(受け入れは20人前後までが目安)。永平寺町の吉田酒造(「永平寺白龍」)も、吉峯蔵で完全予約制の蔵見学・テイスティングを行っています(10時半〜・所要約40分・1人2,500円・定員7名、7日前までに要予約。20歳未満は保護者同伴であれば無料で参加できます)。飲み比べが目当てなら、永平寺町のESHIKOTO内にある「石田屋 ESHIKOTO店」(10時〜17時、テイスティングL.O.16時30分、毎週水曜定休・ほかに不定休あり)で、季節により内容が変わる有料テイスティングが楽しめます。
福井駅周辺には地酒を豊富に揃える酒販店や、日本酒バーもあります。福井の旅の夜に地酒バーで飲み比べを楽しむのも、日本酒好きにはたまらない時間です。お土産には、石田屋 ESHIKOTO店でも扱っているさかほまれを使った酒や、蔵元限定の銘柄を選ぶと喜ばれるでしょう。
福井の日本酒と料理のペアリング
福井の日本酒は地元の食材との相性が抜群です。冬の越前がにには、すっきりとした純米酒を合わせると蟹の甘みが引き立ちます。越前おろしそばには辛口の本醸造が好相性。焼き鯖寿司には熟成感のある純米吟醸がよく合います。
福井の居酒屋や割烹では、料理に合わせた地酒のペアリングを提案してくれる店も増えています。福井の食と酒の豊かな世界を、存分にお楽しみください。
福井の日本酒を支えるのは、やはり「水」です。白山を源とする九頭竜川の伏流水をはじめ、各地の湧水が蔵の仕込み水になっています。硬度の低い軟水はやわらかな口あたりの酒を生み、一本義久保本店のように硬度27mg/Lの超軟水を使う蔵もあります。黒龍・梵・花垣・一本義など、国内外の品評会で評価を重ねる蔵元が揃う福井は、日本酒好きにとって憧れの産地のひとつです。
| 代表的な銘柄 | 黒龍・九頭龍(永平寺町)・梵(鯖江市)・花垣(大野市)・一本義/伝心(勝山市) |
|---|---|
| 黒龍 | 限定酒「石田屋」「二左衛門」「しずく」は生産本数が限られ、入手が難しい |
| 梵(ぼん) | 完全無添加の純米酒だけを醸す蔵。世界118カ国へ輸出し、海外の品評会でも受賞を重ねる |
| 購入できる直営店 | 黒龍=石田屋 本店/ESHIKOTO店、一本義=勝山酒舗、花垣=花垣小売店、梵=蔵併設の小売店舗。ほか県内の酒販店 |
| 見学・利き酒 | 舟木酒造(福井市)の蔵見学は事前申し込み・約40分・300円で利き酒つき。吉田酒造(永平寺町)は吉峯蔵で完全予約制の蔵見学+テイスティング(約40分・1人2,500円・定員7名、7日前までに要予約)。石田屋 ESHIKOTO店は有料テイスティングあり。黒龍酒造・一本義久保本店・田嶋酒造は蔵見学を行っておらず、加藤吉平商店も公式に案内していない |
| アクセス(黒龍) | 石田屋 本店(永平寺町松岡春日)はえちぜん鉄道「松岡駅」から徒歩約6分。ESHIKOTOは永平寺町下浄法寺 |
写真クレジット:
福井県の伝統的な酒蔵の外観 — Asturio Cantabrio(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
黒龍酒造の酒蔵 永平寺町にある福井を代表する銘醸 — 運動会プロテインパワー(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)










