金沢の惣構 — 加賀藩が築いた城下町の防衛ラインを歩く

金沢の惣構(そうがまえ)をご存じでしょうか。加賀藩が城下町全体を守るために築いた防衛ラインで、堀と土居(土塁)で構成される大規模な外郭防御施設です。内惣構と外惣構の二重構造で金沢の街を囲み、その総延長は約8キロメートルにも及びました。現在も市内各所にその遺構が残り、城下町金沢の防衛思想と都市計画を今に伝えています。知られざる金沢の歴史遺産を歩いてみましょう。

金沢の惣構とは — 加賀藩が築いた城下町の防衛ライン

金沢城の石垣と堀の風景
金沢城の石垣と堀 — 惣構の防衛構造(Photo: Andrea Schaffer / CC BY 2.0)

惣構とは、城だけでなく城下町全体を堀と土塁で囲む防衛施設のことです。金沢の惣構は、初代藩主・前田利家の時代(1599年頃)に内惣構が、二代藩主・前田利長の時代(1610年頃)に外惣構が整備されました。関ヶ原の戦い前後、加賀藩は外様大名として徳川幕府から警戒される立場にあり、万一の戦に備えて城下町全体を防御する必要がありました。

内惣構は金沢城を直接囲む防御線で、堀の幅は約5〜10メートル。外惣構はさらにその外側を囲み、城下町の主要部分を丸ごと防御圏に収めていました。堀に加えて土居(土塁)と升形(ますがた)と呼ばれる折れ曲がった出入口が設けられ、敵の侵入を困難にする工夫が随所に施されていました。金沢の惣構は全国的にも珍しい二重構造で、加賀藩の防衛意識の高さを物語っています。

金沢の内惣構の遺構を歩く

内惣構の遺構は金沢城の周辺に点在しています。最もわかりやすい遺構は、ひがし茶屋街の入口付近にある「東内惣構堀」です。現在も水を湛えた堀として残り、金沢市の指定史跡に指定されています。堀の両側には石垣が残り、往時の防衛施設の姿を偲ぶことができます。

西側では、長町武家屋敷跡の近くに西内惣構の跡が残っています。大野庄用水が内惣構の堀として利用されていた区間もあり、用水と防衛施設が一体化していたことがわかります。また、金沢城の南側に位置するいもり堀は、内惣構の堀の一部が復元されたもので、水堀と芝生が美しい憩いの空間として整備されています。金沢城公園の散策と合わせて訪れるのがおすすめです。

金沢の外惣構の遺構と升形

金沢城公園の丸の内石垣と惣構の遺構
金沢城公園に残る石垣と惣構の名残(Photo: Andrea Schaffer / CC BY 2.0)

外惣構は内惣構の外側を大きく囲む防衛ラインで、現在の金沢市中心部の道路配置にもその痕跡が残されています。外惣構の堀跡は「西外惣構堀跡」として、犀川大橋付近から香林坊方面にかけて一部が開渠として残っています。かつての堀が現在の通りや用水路として利用されているケースも多く、注意深く歩くと惣構の名残に気づくことができます。

惣構の出入口である升形は、L字やクランク状に折れ曲がった道のことで、敵の直進を防ぐ軍事的な工夫です。金沢の街を歩いていると、不自然に折れ曲がった交差点や、鍵の手になった道に出くわすことがありますが、それらの多くが惣構の升形の名残です。特に片町や武蔵ヶ辻周辺には升形の痕跡が残っており、現代の街並みの中に戦国・江戸時代の防衛思想が隠されている面白さがあります。

金沢の惣構と城下町の都市計画

金沢の惣構は単なる防衛施設ではなく、城下町全体の都市計画と密接に結びついていました。加賀藩は惣構の内側に武家地・町人地・寺社地を計画的に配置し、防衛と暮らしの両立を図りました。寺町寺院群や卯辰山山麓寺院群は、惣構の内側と外側の境界に配置された「寺院群防御線」で、いざという時に出城や砦としても機能するよう設計されていました。

また、金沢城を中心に犀川と浅野川の二つの河川を天然の外堀として活用し、その間を惣構で囲むという地形を最大限に生かした防衛構想は、加賀藩の軍事的知恵の結晶です。金沢が空襲を受けなかったこともあり、この城下町の都市構造は現代にまでよく残されています。惣構を知ることで、金沢の街がなぜこのような形をしているのかが見えてくるのです。

金沢の惣構めぐり周辺の見どころ

惣構めぐりと合わせて訪れたいのが、金沢城公園です。城内では惣構の内側の防衛構造を石垣や門の配置から読み解くことができます。石川県立歴史博物館では金沢の城下町の歴史について詳しく学べる展示があり、惣構の理解を深める助けになります。

惣構の東端に位置するひがし茶屋街や、西端のにし茶屋街は、惣構の出入口付近に形成された茶屋街です。また、惣構の防御思想と深く関わる妙立寺(忍者寺)は、加賀藩の軍事的な工夫が凝らされた建築として必見です。尾山神社の鼠多門口は、かつて惣構の出入口のひとつでした。

金沢の惣構めぐりのアクセス・散策ガイド

金沢の惣構遺構は市内中心部に点在しているため、金沢城公園を起点に徒歩で巡ることができます。おすすめの散策コースは、金沢城公園(いもり堀)→西内惣構跡(長町方面)→外惣構跡(香林坊〜片町)→東内惣構堀(ひがし茶屋街方面)で、所要時間は約2〜3時間です。金沢駅からは城下まち金沢周遊バスで「兼六園下・金沢城」下車すぐです。

惣構の遺構は標識や案内板が設置されている場所もありますが、予備知識なしでは見過ごしてしまうことも多いです。金沢市が発行している「金沢の惣構マップ」(金沢城公園の案内所などで入手可能)を持参すると効率よく巡れます。また、ボランティアガイドによる惣構ツアーも不定期で開催されています。惣構めぐりは無料で楽しめ、金沢の城下町としての奥深い魅力を発見できる、歴史好きにはたまらない散策コースです。


写真クレジット:
しいのき迎賓館から望む金沢城の石垣 — そらみみ(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
金沢城の石垣と堀 — Andrea Schaffer(Wikimedia Commons / CC BY 2.0)
金沢城公園の丸の内石垣 — Fumihiko Ueno(Wikimedia Commons / CC BY 3.0)

\ 最新情報をチェック /