能登の里山里海と世界農業遺産 — 棚田・塩田・溜池が織りなす持続可能な暮らしの知恵
石川県・能登半島に広がる「能登の里山里海」は、2011年に国連食糧農業機関(FAO)から日本初の世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。棚田や揚げ浜式塩田、溜池群といった美しい農業景観は、何世代にもわたって受け継がれてきた持続可能な暮らしの知恵の結晶です。能登半島の豊かな自然と人々の営みが調和した文化的景観は、訪れる人の心を深く打ちます。
目次
能登の里山里海と世界農業遺産(GIAHS)認定の意義

2011年6月、能登の里山里海は佐渡(新潟県)とともに日本で初めて世界農業遺産に認定されました。世界農業遺産とは、伝統的な農林水産業と、それに関わる文化・景観・生物多様性を一体的に保全する制度です。能登半島では、急峻な地形を活かした棚田農業、日本海の恵みを活用した揚げ浜式製塩、里山の雑木林を利用した炭焼きなど、自然と共生する暮らしが数百年にわたり続いてきました。認定地域は能登半島の4市5町(七尾市・輪島市・珠洲市・羽咋市・志賀町・中能登町・穴水町・能登町・宝達志水町)に及び、半島全体が一つの文化的景観を形成しています。この認定は能登の人々の暮らしそのものが世界的に貴重であることを示しており、地域の誇りと観光資源として大きな意味を持っています。
能登の里山里海を代表する棚田の景観

能登の里山里海を象徴する景観といえば、輪島市の白米千枚田です。日本海に面した急斜面に1,004枚の小さな田んぼが階段状に連なり、「日本の棚田百選」にも選ばれています。一枚一枚の田は機械が入れないほど小さく、今も手作業による田植えや稲刈りが行われています。春には水を張った棚田が鏡のように空を映し、夏は青々とした稲穂が風にそよぎ、秋には黄金色の実りが海岸線を彩ります。冬にはLEDイルミネーション「あぜのきらめき」が開催され、約25,000個の光が棚田を幻想的に照らし出します。白米千枚田は能登の里山里海の代表的な見どころであり、四季を通じて多くの観光客が訪れるフォトスポットです。駐車場は道の駅「千枚田ポケットパーク」に完備されており、棚田を一望できる展望デッキも整備されています。
能登の里山里海に息づく揚げ浜式製塩と伝統産業
能登の里山里海を語るうえで欠かせないのが、500年以上の歴史を持つ揚げ浜式製塩です。珠洲市の仁江海岸では、今も江戸時代と変わらない方法で塩づくりが続けられています。海水を砂地の塩田に撒き、太陽と風の力で濃縮する「揚げ浜式」は、日本で唯一能登だけに残る製塩法で、国の重要無形民俗文化財に指定されています。こうして作られた塩はミネラル豊富でまろやかな味わいが特徴で、能登の食文化を支える重要な調味料です。また、能登の里山では炭焼きや漆掻きといった山の仕事も受け継がれ、輪島塗の原料となる漆の採取は今も続いています。里海ではいしる・いしりと呼ばれる魚醤づくりが盛んで、イカやイワシを発酵させた調味料は能登料理に欠かせない存在です。これらの伝統産業は能登の里山里海が育んだ持続可能な暮らしの知恵そのものです。
能登の里山里海の溜池群と生物多様性
能登半島には約1,300もの溜池(ため池)が点在し、棚田への農業用水を供給するとともに、貴重な生態系を育んでいます。これらの溜池は里山の谷間に築かれ、トンボやカエル、水生植物など多様な生き物の生息地となっています。能登の里山里海では、人間が手を加えた二次的自然が生物多様性を高めるという、世界的にも注目される仕組みが機能しています。溜池のほとりにはアカトンボが群れ飛び、水田にはメダカやドジョウが泳ぎ、里山の森にはカブトムシやクワガタが棲んでいます。こうした「人と自然が共に暮らす風景」こそが、世界農業遺産に認定された理由の一つです。近年は休耕田の増加や高齢化による担い手不足が課題となっていますが、ボランティアによる棚田オーナー制度や、里山保全活動を通じて、能登の景観と生態系を次世代に引き継ぐ取り組みが進められています。
能登の里山里海の周辺の見どころ
能登の里山里海を満喫するなら、周辺の見どころもあわせて巡りたいところです。輪島市では日本三大朝市の一つ輪島朝市で新鮮な海産物や地元の特産品を楽しめます。珠洲市方面に足を伸ばせば、奇岩が連なる曽々木海岸や、能登半島最先端の禄剛埼灯台で絶景を堪能できます。歴史に興味がある方は、曹洞宗の大本山總持寺祖院や、奥能登の豪農の館時国家もおすすめです。また、真脇遺跡では縄文時代から能登に人が暮らしていた歴史を学ぶことができます。能登の食を楽しむなら能登丼や能登牛、能登ワインもぜひ味わってみてください。
能登の里山里海へのアクセス・観光情報
能登の里山里海エリアへのアクセスは、金沢駅からのと鉄道で七尾・穴水方面へ向かうか、車でのと里山海道(無料)を利用するのが便利です。金沢駅から輪島市までは車で約2時間、珠洲市までは約2時間半が目安です。白米千枚田へは輪島市中心部から車で約15分。揚げ浜式製塩の見学は珠洲市の「道の駅すず塩田村」で体験できます。能登の里山里海は広大なエリアに見どころが点在しているため、レンタカーでの周遊がおすすめです。宿泊は和倉温泉を拠点にすると、奥能登方面への観光にも便利です。能登空港(のと里山空港)から羽田への直行便もあり、首都圏からのアクセスも良好です。世界農業遺産の里山里海を体感する能登旅は、日本の原風景に出会える貴重な体験となるでしょう。
写真クレジット:
能登の里山里海・白米千枚田の棚田風景 — Totti(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
白米千枚田の夕焼けと日本海 — MaedaAkihiko(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
能登の里山里海の棚田と農村景観 — Asturio Cantabrio(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)








