福井県の若狭には奈良・平安時代創建の古刹が点在します。明通寺の国宝三重塔、神宮寺の「お水送り」神事、萬徳寺の名庭——歴史ある寺社と自然が融合した若狭路は、京都とはまた異なる古代日本の面影を今に伝えます。

福井県小浜市とその周辺に広がる若狭地方は、「海のある奈良」と呼ばれるほど仏教文化が豊かな土地です。奈良時代から平安時代にかけて都との深い交流があり、多くの寺院が建立されました。その中でも明通寺は福井県唯一の国宝建造物を有する名刹として、若狭を代表する古寺です。明通寺を中心に、お水送りの若狭神宮寺、名庭の萬徳寺・圓照寺など、若狭の古寺を巡る旅をご紹介します。
目次
明通寺の歴史と国宝三重塔 — 若狭最古の名刹
明通寺は、806年(大同元年)に征夷大将軍・坂上田村麻呂が蝦夷征伐の帰途に創建したと伝えられる真言宗御室派の寺院です。小浜市の南、松永川の清流に沿った山あいの静かな谷間に佇み、1200年以上の歴史を刻んでいます。境内には杉や楓の巨木が生い茂り、苔むした石段を登ると、正面に荘厳な本堂と三重塔が姿を現します。
明通寺の三重塔は1270年(文永7年)の建立で、鎌倉時代の和様建築の傑作とされています。高さ約22メートルの塔は、檜皮葺きの屋根が美しい曲線を描き、初層から三層にかけて逓減する優美なプロポーションが特徴です。各層の軒下には精巧な組物が施され、鎌倉期の建築技術の粋を集めた造りとなっています。1953年に国宝に指定されました。
本堂もまた1258年(正嘉2年)の建立で、三重塔と同じく国宝に指定されています。堂内には本尊の薬師如来坐像、降三世明王立像、深沙大将立像などの重要文化財が安置されており、鎌倉時代の仏像彫刻の見事な作品群を間近で拝観することができます。静寂に包まれた堂内で仏像と対峙する時間は、若狭の古寺めぐりの醍醐味です。
明通寺の拝観と御朱印 — 四季折々の境内風景

明通寺の拝観料は大人500円・小学生250円で、本堂内で10分ほどの案内を受けながら仏像や境内を見学できます。拝観受付は年中無休で9:00〜17:00(12月〜2月は16:30まで)。住職や寺の方による説明を聞けることも多く、仏像の由来や建築の特徴について深く学ぶことができます。御朱印は本堂の受付でいただけます。明通寺は若狭観音霊場の第14番札所(札所本尊は聖観音)でもあります。
境内は四季を通じて美しい風景を楽しめるスポットです。春は桜と新緑が山門を彩り、夏は深い緑陰が涼やかな空間を作ります。秋は紅葉が三重塔を鮮やかに彩り、特に11月中旬から下旬にかけての紅葉シーズンは多くの参拝者が訪れます。冬は雪をかぶった三重塔が幻想的な姿を見せ、静寂そのものの境内は禅寺のような趣があります。
拝観の所要時間は約40分から1時間が目安です。境内はそれほど広くありませんが、国宝の建造物と重要文化財の仏像群をじっくりと鑑賞するには十分な時間を確保したいものです。写真撮影は境内の外観は自由ですが、本堂内の仏像は撮影禁止となっている点にご注意ください。
若狭神宮寺とお水送り — 東大寺二月堂への聖水の旅
小浜市の遠敷(おにゅう)地区に位置する若狭神宮寺は、和銅7年(714年)に泰澄大師の弟子・沙門滑元が創建したと伝えられる古刹です。宗派は天台宗で、現存する神仏混淆の寺院として全国的にも珍しい存在。本堂は天文22年(1553年)に越前守護・朝倉義景が再建したもので、仁王門に安置される木造金剛力士像には至徳2年(1385年)の墨書がみえます。この寺は「お水送り」の舞台として全国的に知られ、毎年3月2日に行われる神事は若狭を代表する伝統行事です。
お水送りとは、神宮寺の「閼伽井(あかい)」で汲んだ水を行によって清めたのち、松明行列で約2km離れた遠敷川の河原「鵜の瀬」まで運び、そこから川へ流す神事です。この水は10日間かけて地下を通り、奈良の東大寺二月堂の若狭井に届くとされています。東大寺の修二会(お水取り、3月12日)に先立って行われるこの儀式は、奈良と若狭の深いつながりを今に伝えるもの。松明が川面を照らす幻想的な光景は、若狭の早春の風物詩として多くの人を惹きつけます。中松明・手松明を奉納すると松明行列に参加でき、手松明は若狭おばま観光案内所(0770-52-3844)で予約を受け付けています。
若狭神宮寺の拝観料は500円、拝観時間は9:00〜16:00です。本尊の薬師如来像をはじめ、重要文化財の仏像が安置されており、間近に拝観できます。神仏習合の名残を色濃く残す境内は、鳥居と山門が共存する独特の雰囲気を持っています。なお2月15日〜3月5日はお水送りの準備のため拝観できませんので、この時期に若狭を訪れる方はご注意ください。
萬徳寺の枯山水庭園 — 若狭随一の名庭を訪ねて
小浜市金屋に位置する萬徳寺は、高野山真言宗の寺院で、江戸時代初期に作庭されたと伝わる枯山水庭園で知られています。この庭園は国の名勝に指定されており、背後の山を借景に敷き詰められた白砂と苔むす石組みが美しい調和を見せる、若狭を代表する名庭です。楓の木が庭を囲むように植えられ、秋の紅葉期には赤と白のコントラストが見事な景観を生み出します。
萬徳寺の本尊は木造阿弥陀如来坐像(像高141.5cm)で、平安時代の作とされる国指定重要文化財です。偏袒右肩の衲衣をまとい、上品下生の来迎印を結んだ穏やかな表情の仏像で、書院から庭園を眺めながら静かに拝観する時間は格別な趣があります。拝観料は500円、拝観時間は8:30〜17:00、所要時間は約30分です。
圓照寺・多田寺と若狭の古寺めぐりルート

圓照寺は、小浜市尾崎にある臨済宗南禅寺派の寺院(山号は地久山)で、江戸時代初期に造られた庭園が福井県指定の名勝となっています。馬蹄形に似た池の斜面上方に流石組を兼ねた三尊石組を据えた幽玄な林泉庭園で、茶室から静かに眺めることができます。モリアオガエルの生息地としても知られ、初夏のツツジも見どころ。本尊は像高251.5cmの大日如来坐像(国指定重要文化財)です。拝観料・拝観時間は公表資料によって記載が分かれるため、訪問前に寺(0770-56-1902)へご確認ください。
多田寺は、天平勝宝元年(749年)に創建されたと伝えられる高野山真言宗の古刹で、本尊の薬師如来立像は平安時代初期の桧材一木造の傑作です。像高192.5cmの堂々たる薬師如来は、若狭を代表する仏像のひとつとして国の重要文化財に指定されています。孝謙天皇の眼病を勝行上人が法力で癒したという開基伝承から「多田のお薬師さん」と親しまれ、眼病平癒の祈願で古くから信仰を集めてきました。拝観料は500円、拝観時間は9:00〜16:00です。
若狭の古寺めぐりは、小浜市内を中心に車で巡るのが効率的です。小浜市には神宮寺・明通寺・多田寺・国分寺・圓照寺・羽賀寺・妙楽寺・萬徳寺をめぐる「小浜八ヶ寺巡り」が公式に案内されており、このうち明通寺・神宮寺・萬徳寺・圓照寺・多田寺の5寺なら半日から1日で回れます。各寺院間は車で10〜15分程度の距離です。神宮寺は2月15日〜3月5日がお水送りの準備で拝観不可になるほか、寺院によっては法要等で拝観を受け付けない日もありますので、事前に確認してから訪問されることをおすすめします。
明通寺・若狭の古寺へのアクセスと周辺の見どころ
明通寺へのアクセスは、JR小浜駅から小浜市コミュニティバス「あいあいバス」池河内線に乗り、「明通寺」バス停下車すぐです。便数が少ないため、小浜市公式サイトの時刻表で往復の便を確認してから出かけてください。JR東小浜駅からは車で約10分。車の場合は舞鶴若狭自動車道の小浜ICから約15分で、駐車場があります。
若狭の古寺めぐりと合わせて訪れたい周辺スポットには、鯖街道の起点として知られる小浜の町並み散策や、名水百選の瓜割の滝があります。嶺北方面に足を延ばせば、曹洞宗の大本山永平寺も訪問可能です。若狭の古寺めぐりは、日本の仏教文化の深層に触れる貴重な体験となるでしょう。仏像ファンはもちろん、静かな古寺の空気を味わいたい方にもおすすめの旅です。
写真クレジット:
国宝・明通寺三重塔 — 663highland(Wikimedia Commons / CC BY 2.5)
国宝・明通寺本堂 — 663highland(Wikimedia Commons / CC BY 2.5)
明通寺の境内参道 — 663highland(Wikimedia Commons / CC BY 2.5)









