間垣の里と能登の集落景観 — 大沢・上大沢の竹の防風垣に守られた日本海沿いの暮らし
能登半島の外浦側、輪島市の大沢町と上大沢町には、「間垣」と呼ばれる竹の防風垣で囲まれた独特の集落景観が残されています。日本海から吹きつける強い季節風から家屋を守るために、高さ約5メートルの苦竹(ニガタケ)を隙間なく並べた間垣は、能登の厳しい自然環境と共存してきた人々の知恵の結晶です。能登の里山里海を象徴する風景として、世界農業遺産にも貢献する景観をご紹介します。能登の海女文化とともに、能登の暮らしの知恵を感じる旅に出かけましょう。
間垣の里・大沢集落の歴史

大沢集落における間垣の歴史は古く、いつ頃から始まったかは正確には分かっていませんが、少なくとも江戸時代には現在のような間垣の景観が形成されていたと考えられています。日本海に直接面した大沢の海岸は、冬になると「能登の荒波」として知られる激しい季節風と波浪にさらされます。この厳しい自然条件から暮らしを守るため、人々は竹を密に並べた防風垣を家の周囲に巡らせました。
間垣に使われる苦竹は、毎年秋に地域の住民が共同で刈り取り、乾燥させてから設置します。古くなった竹は新しいものに差し替えるという、年ごとの手入れが欠かせない生きた構造物です。かつては能登の外浦沿いに多く見られた間垣の集落も、過疎化と高齢化の影響で減少しており、現在まとまった形で残っているのは大沢と上大沢のみとなっています。この貴重な景観は、国の重要文化的景観にも選定されています。
間垣の里の独特な景観と建築
間垣の里を訪れると、まず目に飛び込んでくるのは、道路の両側に立ち並ぶ高さ約5メートルの竹の壁です。この竹の防風垣は、一見すると単なる柵のように見えますが、風を完全に遮断するのではなく、適度に風を通しながら勢いを弱めるという巧みな構造になっています。竹と竹の間にわずかな隙間があることで、風圧を分散させ、倒壊を防ぐ仕組みです。
間垣に囲まれた家屋は、能登地方独特の黒瓦と板壁の伝統的な造りで、集落全体が統一された美しい景観を形成しています。狭い路地を歩くと、竹の壁に囲まれた不思議な空間が広がり、風の音が竹を通してさらさらと聞こえてきます。夏には間垣が日差しを遮る日除けの役割も果たし、冬には雪と風から家を守る防壁となります。季節ごとに表情を変える間垣の風景は、能登の自然と人の営みが一体となった芸術作品のようです。
間垣の里・上大沢集落と能登の暮らし
大沢集落から約1キロほど北に位置する上大沢集落も、間垣の景観が美しく残る集落です。上大沢は大沢よりもさらに小さな集落ですが、間垣の高さや密度は大沢に引けを取らず、より素朴で静かな雰囲気を楽しむことができます。集落の背後には急峻な山が迫り、前面には日本海が広がるという、能登の外浦の典型的な地形の中に佇んでいます。
間垣の里の人々の暮らしは、海と山の両方に支えられてきました。漁業を生業とする家が多く、海女の文化も受け継がれてきた地域です。冬の厳しい季節風を間垣でしのぎ、春になれば山菜採りや田植えに励み、夏は漁に出るという、自然のリズムに合わせた暮らしが今も続いています。過疎化が進む中でも、地域の人々は間垣の維持管理を続けており、この貴重な文化的景観を次世代に伝えようとしています。
間垣の里の四季と見学マナー
間垣の里は四季折々に異なる表情を見せてくれます。春は新緑の竹が鮮やかな緑色に輝き、集落全体が若々しい雰囲気に包まれます。夏は青い海と緑の竹のコントラストが美しく、海からの涼しい風が竹の間を通り抜けます。秋は竹が黄金色に色づき始め、哀愁を帯びた風景になります。そして冬こそが間垣の真価が発揮される季節で、灰色の空と荒れる日本海を背景に、竹の壁が風雪から集落を守る姿は力強くも美しい光景です。
見学時のマナーとして、間垣の里はあくまで住民の方々の生活の場であることを忘れないでください。集落内は静かに歩き、私有地には立ち入らないようにしましょう。写真撮影は公道から行い、住民の方のプライバシーに配慮してください。大声での会話や団体でのにぎやかな行動は控え、この静かな集落の雰囲気を損なわないようにしましょう。間垣に触れたり、竹を折ったりする行為は厳禁です。
間垣の里へのアクセスと周辺観光
間垣の里(大沢・上大沢集落)へのアクセスは、輪島市街地から県道38号線を南西方向に車で約20分です。能登半島ドライブのルートに組み込みやすい位置にあります。駐車場は集落の入口付近に数台分のスペースがありますが、大型車の進入は難しいため、普通車での訪問をおすすめします。公共交通機関の場合は、輪島駅前からバスが運行していますが、本数が少ないため事前に時刻表を確認してください。
周辺の観光スポットとしては、輪島朝市が車で約30分の距離にあり、午前中に朝市を楽しんだ後に間垣の里を訪れるのがおすすめです。能登の夕日スポットとしても知られるこのエリアでは、日本海に沈む夕日を間垣越しに眺めるという贅沢な体験ができます。能登の里山里海の世界農業遺産としての価値を実感できる間垣の里は、能登の文化と自然の深い結びつきを感じられる特別な場所です。
写真クレジット:
間垣の里・大沢集落の風景 — Indiana jo(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)








