棟方志功と南砺市福光 — 板画の巨匠が6年半を過ごした疎開の地と福光美術館・愛染苑
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棟方志功と南砺市福光 — 板画の巨匠が過ごした疎開の地
棟方志功(むなかたしこう、1903-1975)は、青森市出身の板画家であり、20世紀を代表する日本の芸術家です。「板画」という独自の呼称を用い、木版画の世界に圧倒的な生命力と精神性をもたらしました。1956年にはヴェネツィア・ビエンナーレで国際版画大賞を受賞し、「世界のムナカタ」として国際的な評価を確立しています。

その棟方志功が太平洋戦争末期の1945年4月から1951年11月までの約6年半を過ごしたのが、現在の南砺市福光です。東京大空襲で自宅とアトリエを焼失した棟方は、知人の紹介で富山県西礪波郡福光町(現・南砺市)に疎開しました。戦火を逃れた富山の山里で、棟方は新たな芸術の境地を切り拓いていきます。
福光での暮らしは決して裕福ではありませんでしたが、北陸の自然と人々の温かさに包まれた環境は、棟方の創作意欲を大いに刺激しました。この時期に生み出された作品群は、棟方芸術の円熟期として高く評価されており、南砺市は「板画の聖地」として全国の棟方ファンが訪れる場所となっています。
棟方志功の福光時代 — 疎開先で花開いた板画芸術
福光時代の棟方志功は、驚異的な創作力を発揮しました。代表作のひとつ「華狩頌(はなかりしょう)」は福光で制作された大作で、北陸の花々や自然を題材にした華やかな作品です。また、浄土真宗の信仰が篤い土地柄から仏教的な主題の作品も多く手がけ、「御二河図(ごにがず)」や「阿弥陀如来像」など宗教的な深みを持つ板画が次々と生まれました。
福光では地元の寺院や民家の襖絵も数多く手がけており、光徳寺には棟方が描いた襖絵が今も大切に保管されています。極度の近視であった棟方は、板に顔をほとんどくっつけるようにして彫り進める独特のスタイルで知られ、その姿は福光の人々の記憶にも深く刻まれています。
日本海側の風土は棟方の色彩感覚にも影響を与えたといわれています。冬の鉛色の空と白い雪、春の桜やチューリップの鮮やかさ、夏の緑深い山々といった富山の四季の景色は、棟方の作品に新たな色彩と詩情をもたらしました。福光時代は棟方にとって、芸術的にも人間的にも大きく成長した時期だったのです。


南砺市立福光美術館 — 棟方志功コレクションの殿堂
南砺市立福光美術館は、棟方志功の作品を中心に展示する美術館として1994年に開館しました。棟方の板画・倭画(肉筆画)・書など約200点を所蔵しており、常設展示室では福光時代の代表作を中心に、棟方芸術の全容を鑑賞することができます。作品の入れ替えも定期的に行われるため、何度訪れても新たな発見があります。
美術館は医王山のふもとの緑豊かな環境に建てられており、棟方が愛した福光の自然に囲まれながらゆったりと芸術鑑賞を楽しめる空間となっています。館内では棟方の生涯を紹介する映像資料も上映されており、作品の背景にある棟方の人生や思想を深く理解することができます。
入館料は一般300円、高校・大学生200円で、特別展の開催時は別途料金がかかる場合があります。開館時間は9時から17時(入館は16時30分まで)、休館日は火曜日と年末年始です。福光美術館と後述の愛染苑を合わせて訪れることで、棟方志功の福光時代をより立体的に理解できるでしょう。
棟方志功記念館・愛染苑 — 疎開先の旧居とアトリエ
愛染苑(あいぜんえん)は、棟方志功が福光で暮らした旧居「鯉雨画斎(りうがさい)」とアトリエを復元・公開した記念館です。棟方はこの建物を「愛染苑」と名づけ、創作の拠点としました。小さな和室のアトリエには棟方が使っていた彫刻刀や絵具が再現され、板画に向かう棟方の姿が目に浮かぶような臨場感があります。
庭園には棟方が愛した草花が植えられ、四季折々の花が咲き誇ります。棟方は福光で庭いじりを楽しんだことでも知られ、花や植物は作品のモチーフとしても多く登場しています。敷地内にはミニギャラリーもあり、棟方の版画や書が展示されています。
愛染苑は福光美術館から車で約5分の距離にあり、両施設を合わせて巡るのが定番のコースです。入館料は大人200円で、福光美術館との共通券もあります。棟方志功がどのような環境で制作に打ち込んだのかを肌で感じることができる貴重な場所であり、棟方芸術への理解を深めるためにぜひ足を運んでいただきたいスポットです。


棟方志功ゆかりの地めぐり — 南砺市の文化散策
南砺市内には愛染苑と福光美術館以外にも、棟方志功にゆかりのある場所が点在しています。光徳寺は棟方が深い信仰を寄せた浄土真宗の寺院で、棟方が奉納した襖絵や板画が今も本堂に飾られています。住職一家と棟方の親交は深く、寺を訪れると棟方の人柄を伝えるエピソードを聞くことができます。
福光の街を歩くと、棟方にちなんだモニュメントや案内板が随所に設置されており、「棟方志功のまち」としての誇りが感じられます。福光駅前には棟方の銅像があり、商店街にも棟方の作品をモチーフにした装飾が見られます。毎年秋には「棟方志功サミット」が開催され、全国から棟方研究者やファンが集まります。
南砺市は棟方志功のほかにも豊かな文化資源を持つ地域です。井波彫刻の精緻な木彫りや、五箇山の合掌造り集落、こきりこ祭りと城端曳山祭など、伝統文化が色濃く残るエリアです。棟方志功ゆかりの地と合わせて南砺市を巡れば、芸術と伝統が息づく奥深い富山の魅力に出会えるでしょう。
棟方志功ゆかりの南砺市へのアクセスと観光案内
南砺市福光へのアクセスは、JR城端線の福光駅が最寄りで、高岡駅から約50分です。北陸新幹線の新高岡駅からはJR城端線に乗り換えて福光駅へ向かいます。車の場合は東海北陸自動車道・福光ICから市街地まで約5分、金沢市内からは約40分です。福光美術館と愛染苑にはそれぞれ無料駐車場があります。
南砺市内の移動は車が便利ですが、JR城端線沿線の城端・福光・福野の各エリアはコンパクトにまとまっているため、レンタサイクルでの散策も楽しめます。福光から五箇山の合掌造り集落までは車で約30分、井波彫刻の里までは約20分と近く、一日で複数のスポットを効率よく巡ることができます。
宿泊は福光温泉や城端の旅館のほか、五箇山の合掌造り民宿に泊まる体験もおすすめです。富山の伝統文化と芸術を同時に満喫できる南砺市は、静かな環境でゆっくりと文化に浸りたい旅行者にぴったりの目的地です。富山市のガラス美術館と合わせて「富山アート旅」を組むのも素敵なプランです。
写真クレジット:
棟方志功ゆかりの南砺市福光の風景 — DoWhile(Wikimedia Commons / Public domain)
南砺市福光の街並み — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)
南砺市の風景 — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)
棟方志功が暮らした福光の風景 — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)
南砺市福光の街並み — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)








