椎葉圓比咩神社 — 能登国式内社・皇女伝説が伝わる羽咋市円井町の古社
石川県羽咋市円井町に鎮座する椎葉圓比咩神社(しいばつぶらひめじんじゃ)は、『延喜式』神名帳に記載された能登国羽咋郡の式内社に比定される古社です。御祭神は椎葉圓比咩之命(しいばつぶらひめのみこと)。古代能登の信仰と皇族伝説が交差するこの神社の歴史を紐解きます。

目次
椎葉圓比咩神社の御祭神 — 椎葉圓比咩之命と圓皇女
椎葉圓比咩神社の御祭神は椎葉圓比咩之命(しいばつぶらひめのみこと)です。明治時代の神社調査以降、この御祭神は圓皇女(つぶらのひめみこ)、すなわち第18代反正天皇の皇女と同一視されるようになりました。
『古事記』では都夫良郎女(つぶらのいらつめ)の名で登場し、反正天皇(瑞歯別命)の御子として記されています。なぜ皇族の姫君が遠く能登の地で祀られているのか、その詳細な経緯は文献に残されていませんが、古代の皇族が地方に下向し、その地で神として祀られる例は各地に見られます。羽咋の地名自体が「羽を食う犬」の伝説に由来し、垂仁天皇の皇子・磐衝別命が怪鳥を退治した故事と結びつく土地柄です。皇族との縁が深い能登の歴史を物語る存在が、この椎葉圓比咩神社といえるでしょう。
椎葉圓比咩神社の延喜式内社としての歴史
延長5年(927年)に完成した『延喜式』神名帳には、能登国羽咋郡に「椎葉圓比咩神社」の名が記載されています。延喜式内社とは、平安時代に朝廷から祈年祭の幣帛を受ける資格をもった格式ある神社のことで、能登国では全体で43座が記載されました。椎葉圓比咩神社がその一つに数えられていることは、古代における当社の重要性を示しています。
同じ羽咋市内で式内社の筆頭格にあたるのが能登国一宮の気多大社です。気多大社が大国主命を祀る国家的な祭祀の場であったのに対し、椎葉圓比咩神社は皇族の姫を祀る社として、異なる系統の信仰を伝えてきました。
椎葉圓比咩神社の論社問題 — 円井町と柴垣町の二社
椎葉圓比咩神社には、延喜式内社の正統をめぐる「論社」の問題が存在します。現在、以下の二社が式内社を名乗っています。
- 円井町の椎葉圓比咩神社(羽咋市円井町)— 当記事の神社
- 柴垣町の椎葉圓比咩神社(羽咋市柴垣町ハ37番地)— 背後に親王塚古墳(柴垣古墳)がある
寛延年間(1748〜1751年)、両社の間で式内社の正統性をめぐる争論が起きました。この論争は最終的に幕府の裁定を経て決着しましたが、明確にどちらか一方のみを正統とする結論には至らず、両社とも式内社としての由緒を主張し続けています。
興味深いのは、それぞれの鎮座地の地名が御祭神の名に由来する点です。「円井(つむらい)」は御祭神の「圓比(つぶらひ)」から転じたもの、「柴垣(しばがき)」は「椎葉(しいば)」が変化したものとされています。つまり、二つの地名それぞれが椎葉圓比咩之命との関わりを示しており、古代においてこの女神の信仰が羽咋市域に広く浸透していたことがうかがえます。

椎葉圓比咩神社と白山信仰の関わり
椎葉圓比咩神社はかつて「白山社」あるいは「白山宮」と呼ばれていました。これは中世以降、日本各地の古社が白山信仰の影響を受けて白山社を合祀したり、社名が変わったりした歴史と関係しています。
白山信仰の総本社である白山比咩神社(白山市)は、加賀・能登・越前にまたがる広大な信仰圏をもち、能登地方にも多くの白山社が分布しています。椎葉圓比咩神社が白山社と称されたのは、白山修験の隆盛に伴い地方の古社が白山信仰に取り込まれた歴史の一端を示すものです。明治の神仏分離と社格制度の整備に伴い、本来の社名である椎葉圓比咩神社に復したと考えられています。
椎葉圓比咩神社と邑知潟の古代風景
椎葉圓比咩神社が鎮座する円井町は、邑知潟(おうちがた)の南縁に位置します。邑知潟はかつて羽咋市の中央部に広がっていた巨大な潟湖で、古代には内海のような景観をなしていました。現在は大部分が干拓されて水田地帯となっていますが、低湿な平野として往時の名残をとどめています。
古代の邑知潟周辺は、気多大社の鎮座地をはじめ、柴垣古墳(親王塚古墳)や羽咋の七塚など、重要な祭祀・墳墓遺跡が集中する地域でした。潟湖を中心とした水運と豊かな水産資源が古代能登の繁栄を支え、椎葉圓比咩神社のような式内社が営まれる基盤となったのです。石川県の古墳まとめでも紹介しているとおり、この一帯は古代能登の政治・祭祀の中心地であったことがわかります。
椎葉圓比咩神社へのアクセス・参拝情報
椎葉圓比咩神社(円井町)は小さな地域の鎮守社であり、常駐の神職はいません。羽咋神社の宮司が兼務で管理しています。参拝は自由ですが、御朱印については事前に羽咋神社へ確認することをおすすめします。
- 所在地:石川県羽咋市円井町
- 兼務社管理:羽咋神社(羽咋市川原町エ164)
- 電話:0767-22-0817(羽咋神社)
- 駐車場:境内に数台分の駐車スペースあり
- アクセス:JR羽咋駅から車で約10分。のと里山海道「千里浜IC」から約15分
- 参拝所要時間:約15〜20分
千里浜なぎさドライブウェイから邑知潟方面へ向かう途中に立ち寄ることができます。近くにはコスモアイル羽咋や妙成寺もあり、能登観光と組み合わせた参拝が可能です。
椎葉圓比咩神社の周辺の見どころ
- 気多大社 — 能登国一宮・縁結びの古社(車で約15分)
- 柴垣古墳(親王塚古墳) — もう一つの椎葉圓比咩神社の背後にある前方後円墳(車で約10分)
- 千里浜なぎさドライブウェイ — 日本唯一の砂浜ドライブ(車で約15分)
- 妙成寺 — 北陸唯一の五重塔を持つ日蓮宗の名刹(車で約20分)
- コスモアイル羽咋 — 宇宙科学博物館(車で約10分)
- 羽咋市の魅力完全ガイド — 羽咋市の観光情報をまとめた記事
能登半島の神社をめぐるなら、北陸三県の御朱印めぐり完全ガイドや能登復興応援旅行ガイドもあわせてご覧ください。
写真クレジット:
羽咋神社の鳥居 — Saigen Jiro(Wikimedia Commons / CC0)
羽咋神社の拝殿 — Saigen Jiro(Wikimedia Commons / CC0)









