山中温泉 — 芭蕉が愛した「扶桑三名湯」とこおろぎ橋
「山中の温泉にゆくと、有馬・草津に次いで扶桑三名湯のひとつ」と松尾芭蕉が称えた山中温泉は、加賀温泉郷の最も山間に位置する風光明媚な温泉地です。大聖寺川が刻んだ鶴仙渓の渓谷美とともに、こおろぎ橋やあやとりはしといった名橋が訪れる人を魅了します。開湯から約1300年の歴史を持ち、渓流沿いの遊歩道を散策すれば、芭蕉が「奥の細道」で詠んだ風景を今も感じることができます。温泉と自然と文化が一体となった、北陸を代表する温泉地です。
目次
山中温泉の歴史と芭蕉が愛した「扶桑三名湯」

山中温泉の開湯は奈良時代の養老年間(717〜724年)、行基が白鷺に導かれて発見したと伝えられています。元禄2年(1689年)、「奥の細道」の旅の途中で山中温泉を訪れた松尾芭蕉は、約9日間にわたって逗留しました。芭蕉はこの地の湯をいたく気に入り、「山中や菊は手折らじ湯の匂い」の句を詠み、有馬・草津と並ぶ「扶桑三名湯」のひとつと称えました。泉質はカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉で、無色透明のなめらかな肌触りが特徴。疲労回復や切り傷、冷え性に効能があり、「美肌の湯」としても知られています。温泉街には総湯「菊の湯」があり、男湯と女湯が別棟に分かれた珍しい構造。男湯は入浴料大人460円で、芭蕉も浸かったとされる歴史ある名湯を体験できます。
山中温泉のこおろぎ橋とあやとりはし
山中温泉のシンボルともいえる「こおろぎ橋」は、鶴仙渓に架かる総檜造りの風情ある橋です。現在の橋は2019年に架け替えられたもので、伝統的な工法で美しく復元されました。橋の名の由来は、行路が険しく「行路危」が転じたという説や、秋に橋の下でこおろぎが鳴くことからという説があります。橋の上からは渓谷の緑と清流を見下ろす絶景が広がり、特に紅葉シーズンは息をのむ美しさ。一方、「あやとりはし」は現代美術家・勅使河原宏がデザインしたS字型の斬新な歩行者専用橋で、鮮やかな紫色のフォルムが渓谷に映えます。長さ94.7mの橋からは鶴仙渓を一望でき、伝統と現代アートの対比を楽しめるのが山中温泉ならではの魅力です。
鶴仙渓遊歩道と山中温泉の自然の見どころ

大聖寺川沿いに約1.3km続く鶴仙渓遊歩道は、山中温泉きっての散策コースです。こおろぎ橋からあやとりはし、黒谷橋まで、渓谷の美しい風景を眺めながら約30分の道のり。春は新緑、夏は涼やかな渓流の音、秋は燃えるような紅葉、冬は雪化粧と、四季折々の絶景を楽しめます。4月から11月の期間限定で「鶴仙渓 川床」が設けられ、渓流を眺めながら道場六三郎レシピの川床スイーツ(抹茶セット500円程度)を味わえるのも人気のポイント。温泉街の背後には白山の裾野が広がり、白山白川郷ホワイトロードへのドライブや、手取峡谷の豪快な渓谷美を訪ねる旅とも組み合わせやすい立地です。
山中温泉の伝統工芸と山中漆器
山中温泉は、安土桃山時代から続く山中漆器の産地としても有名です。木地を挽く「ろくろ技術」に優れ、木目の美しさを活かした椀や盃は、全国の漆器生産量の大部分を占めています。温泉街には漆器の工房やギャラリーが点在し、絵付け体験やろくろ見学ができる施設もあります。「うるしの器 あさだ」や「我谷盆」など、職人の技を間近に見られるのが山中温泉ならでは。また、毎年9月に開催される「山中温泉 お湯まつり」では、芭蕉を偲ぶ句会や、山中節の踊りが温泉街を彩ります。山中節は日本三大民謡のひとつに数えられ、哀愁のあるメロディーは山中温泉の文化を象徴する存在です。
山中温泉周辺の見どころ・観光スポット
山中温泉からは加賀温泉郷の他の温泉地にもアクセスしやすく、加賀温泉郷の湯めぐりが楽しめます。車で約15分の那谷寺は、松尾芭蕉も訪れた名刹で、奇岩と紅葉の絶景が見事。粟津温泉へは車で約20分で、開湯1300年を誇る北陸最古の温泉です。伝統工芸に興味のある方は、大聖寺と九谷焼の窯元めぐりもおすすめ。白山手取川ジオパークエリアへ足を延ばせば、大自然のダイナミックな地形を体感できます。温泉と渓谷美、伝統工芸と歴史文化、そして豊かな自然と、山中温泉を拠点に多彩な加賀の旅を満喫できます。
山中温泉へのアクセス・駐車場情報
山中温泉へは、JR加賀温泉駅から加賀周遊バス「キャン・バス」で約30分、または路線バスで約30分です。車の場合は北陸自動車道の加賀ICから約20分。金沢市内からは車で約70分でアクセスできます。温泉街にはいくつかの無料公共駐車場があり、「道の駅 山中温泉 ゆけむり健康村」の駐車場も利用可能です。こおろぎ橋周辺にも駐車場がありますが、台数が限られるため紅葉シーズンは早めの到着がおすすめ。鶴仙渓遊歩道は片道約30分の行程で、歩きやすい靴での訪問をおすすめします。芭蕉も愛した山中温泉で、渓谷美と名湯に癒される旅をお楽しみください。
写真クレジット:
こおろぎ橋 — Bio06940(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
山中温泉の温泉街 — Suikotei(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
山中温泉の自然風景 — Hurohukidaikon(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)






