南砺市のこきりこ祭りと城端曳山祭 — 五箇山の民謡芸能とユネスコ無形文化遺産の山車巡行

城端曳山祭のユネスコ無形文化遺産に登録された曳山巡行
城端曳山祭の曳山巡行。ユネスコ無形文化遺産に登録された南砺の祭り文化(Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA)

富山県南砺市は、日本最古の民謡「こきりこ節」の里であり、ユネスコ無形文化遺産に登録された城端曳山祭の開催地でもある、伝統芸能の宝庫です。五箇山の山深い集落で守り継がれてきたこきりこ祭りと、絹織物の町・城端で華やかに繰り広げられる曳山祭は、それぞれ異なる魅力を持ちながら、南砺の豊かな文化を今に伝えています。この記事では、二つの祭りの見どころとアクセス情報を詳しくご紹介します。

こきりこ祭りとは — 五箇山に伝わる日本最古の民謡祭

こきりこ祭りは、毎年9月25日・26日に南砺市の上梨(かみなし)地区にある白山宮の境内で開催される祭りです。五箇山の代表的な民謡「こきりこ節」を中心に、ささら踊りや麦屋節など、五箇山に伝わる伝統芸能が奉納される秋祭りとして知られています。白山宮の杉木立に囲まれた境内で繰り広げられる踊りは、どこか神秘的な雰囲気を漂わせ、訪れる人々を古の世界へと誘います。

こきりこ節は「日本最古の民謡」と称される五箇山の代表的な唄で、その起源は奈良時代以前にまで遡るとされています。「まどのサンサはデデレコデン はれのサンサもデデレコデン」という独特の囃子詞(はやしことば)と、素朴で力強いリズムが特徴です。歌詞の内容は五箇山の自然や暮らしを詠んだもので、山村の生活に根ざした民謡の原初的な姿を今に伝えています。

祭りのメインイベントは、白山宮の拝殿で行われるこきりこ踊りの奉納です。衣装を身にまとった踊り手が、筑子(こきりこ)と呼ばれる竹製の楽器や、ささら(編木)を手に持って踊る姿は優美そのもの。特にささらを操る踊りは、108枚の木片を連ねた楽器を身体にまとわせるように使いながら舞う独特のもので、他では見ることのできない五箇山ならではの芸能です。

こきりこ節と筑子・ささらの魅力

こきりこ節で使われる楽器は、いずれも素朴でありながら独特の音色を持っています。「筑子」は2本の竹の棒を打ち合わせて音を出す最もシンプルな楽器で、カチカチという軽快な音がこきりこ節のリズムを刻みます。「ささら」(編木)は108枚の桧の薄板を紐で連ねたもので、両手で操ると波打つような動きとともにシャラシャラという独特の音を奏でます。108という数は仏教の煩悩の数に由来するとされ、楽器そのものに深い精神性が宿っています。

こきりこ節の踊りには、「ささら踊り」と「手踊り」の二つの型があります。ささら踊りでは、踊り手がささらを両手で持ち、頭上から体の周囲へと流れるように動かしながら踊ります。ささらが体をまとうように波打つ動きは見ていて美しく、木片の触れ合う音が境内に響き渡ります。手踊りはよりシンプルな所作で、筑子を打ち鳴らしながら素朴な動きで踊るもので、五箇山の暮らしの中から自然に生まれた芸能の姿を感じることができます。

五箇山では、こきりこ節のほかにも「麦屋節」「といちんさ節」など多彩な民謡が伝承されています。麦屋節は、平家の落人伝説と結びついた哀愁漂う踊りで、編笠を被った踊り手が刀を手に舞う勇壮な姿が印象的です。こきりこ祭りではこれらの民謡も披露されるため、五箇山の伝統芸能を一度に堪能できる貴重な機会となっています。

城端曳山祭の庵唄と曳山 — ユネスコ無形文化遺産の祭礼

南砺市の城端曳山会館に展示された曳山と庵屋台
城端曳山会館に展示された曳山と庵屋台。精緻な装飾を間近で鑑賞できる(Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA)

城端曳山祭(じょうはなひきやままつり)は、毎年5月4日・5日に南砺市城端地区で開催される城端神明宮の春季例大祭です。2016年にユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の一つとして登録され、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。6基の曳山と6台の庵屋台(いおりやたい)が、絹織物で栄えた城端の旧市街を巡行する姿は、まさに北陸の小京都にふさわしい雅やかさです。

城端曳山祭の最大の特徴は、庵屋台から流れる「庵唄(いおりうた)」にあります。庵屋台は京都の御所を模した優美な建物を載せた屋台で、その中で若衆たちが三味線や笛に合わせて江戸端唄や小唄を歌います。城端の庵唄は京都の花街文化の影響を受けながらも独自の発展を遂げたもので、哀愁を帯びた旋律が城端の狭い路地に響き渡る様は、時が止まったかのような幻想的な体験です。

曳山は高さ約6メートルの豪華な山車で、精緻な彫刻と漆塗り、金箔押しの装飾が施されています。各町内が所有する曳山には、それぞれ異なる御神像が安置されており、関羽や恵比寿、布袋などの人形が飾られています。巡行のハイライトは、曳山が狭い角を曲がる「辻回し」の場面で、大きな山車を巧みに操る引き手たちの掛け声と車輪の軋む音が祭りの興奮を盛り上げます。

五箇山の伝統芸能と南砺市の祭りカレンダー

城端の町並みを巡行する庵屋台と曳山
城端の風情ある町並みを巡行する庵屋台。庵唄が路地に響き渡る(Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA)

南砺市は合併前の旧8町村それぞれに独自の祭り文化が根付いており、年間を通じて多彩な伝統行事が開催されています。春の城端曳山祭(5月4日・5日)に始まり、夏には福野の「夜高祭」(6月上旬)で巨大な行燈が町を練り歩きます。秋にはこきりこ祭り(9月25日・26日)と五箇山麦屋まつり(9月23日・24日)が行われ、五箇山の民謡芸能を存分に楽しめます。

五箇山の伝統芸能は、五箇山の合掌造り集落の暮らしと深く結びついています。世界遺産に登録された相倉集落や菅沼集落では、合掌造りの民家を舞台にした民謡の披露が不定期に行われており、囲炉裏端でこきりこ節や麦屋節を聴くという贅沢な体験ができることもあります。冬のライトアップイベントの際には、雪に包まれた合掌造りを背景に民謡が演じられることもあり、幻想的な雰囲気の中で五箇山の芸能に触れることができます。

南砺市では、こうした伝統芸能の継承に力を入れており、地元の小中学校ではこきりこ節や麦屋節の授業が行われています。また、五箇山民俗館や城端曳山会館では、祭り以外の時期でも伝統芸能の映像資料や楽器の展示を通じて、その魅力を伝えています。祭りの時期に訪れるのが理想的ですが、通年で南砺の文化に触れることができる施設も充実しています。

こきりこ祭り・城端曳山祭へのアクセス情報

こきりこ祭りの会場である白山宮へは、JR城端線の城端駅から五箇山方面行きの世界遺産バスで約25分、「上梨」バス停下車すぐです。北陸自動車道の砺波ICから国道156号線を南へ約40分、東海北陸自動車道の五箇山ICからは約15分でアクセスできます。祭り当日は臨時駐車場が設けられますが、台数に限りがあるため公共交通機関の利用がおすすめです。上梨地区は山間の小さな集落のため、宿泊施設は限られています。城端や砺波市内のホテルを拠点にするのがよいでしょう。

城端曳山祭の会場へは、JR城端線の城端駅から徒歩約10分です。北陸新幹線の新高岡駅からは城端線に乗り換えて約50分で城端駅に到着します。車の場合は東海北陸自動車道の福光ICから約15分です。祭り当日は城端市街地に交通規制が敷かれるため、臨時駐車場からのシャトルバスを利用するのが便利です。

両方の祭りを楽しみたい場合は、5月の城端曳山祭と9月のこきりこ祭りをそれぞれ目掛けて訪れるのが理想的です。祭り以外の時期でも、城端曳山会館(入館料510円)や五箇山の合掌造り集落は通年で見学可能です。城端は「越中の小京都」と呼ばれる風情ある町並みが残り、善徳寺の門前町としての歴史ある通りを散策するのも楽しいものです。

南砺市の祭りと周辺の見どころ

南砺市は祭り文化だけでなく、豊かな自然と歴史的遺産に恵まれた地域です。最大の見どころは世界遺産五箇山の合掌造り集落で、相倉集落と菅沼集落の茅葺き屋根の家々が山間の棚田と調和した風景は、日本の原風景そのものです。合掌造りの民家では宿泊体験も可能で、囲炉裏端での食事や五箇山豆腐など地元の食材を使った料理を楽しむことができます。

南砺市から足を延ばせば、庄川峡遊覧船で翡翠色の水面と峡谷の絶景を楽しむこともできます。冬の雪景色の中を進む遊覧船は特に人気が高く、水墨画のような幻想的な風景が広がります。また、砺波の散居村は、広大な平野に農家が点在する独特の景観で、散居村展望台からの眺めは圧巻です。春のチューリップフェアの時期には、一面のチューリップ畑と散居村の風景が見事な彩りを見せます。

南砺市の食文化も見逃せません。五箇山豆腐は縄で縛っても崩れないほど堅い豆腐で、こきりこ祭りの時期には出店で味わうこともできます。城端地区では、絹織物の街らしく上品な和菓子の文化が根付いており、「田村萬盛堂」の銘菓「月よみ山路」はお土産にも最適です。南砺の祭りと自然、そして食をあわせて巡る旅は、富山の奥深い魅力を発見する旅となるでしょう。おわら風の盆とあわせて、富山の祭り文化を堪能してみてはいかがでしょうか。

写真クレジット:
城端曳山祭のユネスコ無形文化遺産に登録された曳山巡行 — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)
南砺市の城端曳山会館に展示された曳山と庵屋台 — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)
城端の町並みを巡行する庵屋台と曳山 — Wikimedia Commons(Wikimedia Commons / CC BY-SA)

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