能登の発酵食品 — いしる・こんか漬け・かぶら寿しに息づく能登半島の発酵文化

石川県の伝統発酵食品かぶら寿し
石川の冬の味覚・かぶら寿し(Photo: Ttaakkaco / CC BY-SA 4.0)

能登半島は、日本有数の発酵食品の宝庫です。魚醤「いしる」、糠漬けの一種「こんか漬け」、冬の風物詩「かぶら寿し」など、能登の厳しい自然環境と先人の知恵が生み出した発酵食品は、世界農業遺産「能登の里山里海」の食文化を象徴する存在です。日本海の豊かな海の幸と、山間部で育まれた農産物が出会い、微生物の力を借りて生まれる能登の発酵食品の奥深い世界をご紹介します。

能登半島では、冬の寒さと湿度が発酵に適した環境を生み出し、古くから保存食としての発酵文化が根付いてきました。能登の里山里海が育む食の多様性は、地域の暮らしと自然が一体となった持続可能な食文化の好例として、世界的にも注目されています。

能登の魚醤「いしる」の伝統

いしる(いしり)は、能登半島に伝わる日本三大魚醤のひとつです。タイやベトナムのナンプラーと同じく、魚を塩漬けにして発酵させた液体調味料で、能登では数百年にわたって受け継がれてきた伝統的な調味料です。秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油と並ぶ日本の代表的な魚醤として知られています。

いしるには大きく分けて二種類あります。能登半島の内浦(七尾湾側)で作られるいかを原料とした「いしり」と、外浦(日本海側)で作られるいわしさばを原料とした「いしる」です。いかのいしりは濃厚でまろやかな旨味が特徴で、いわしのいしるはより力強い風味があります。

製法は、新鮮な魚介に約30%の塩を加え、木桶で1年半から2年ほど自然発酵させるシンプルなもの。長期熟成により魚のタンパク質がアミノ酸に分解され、深い旨味が生まれます。いしるは能登の郷土料理に欠かせない存在で、「いしる鍋」は能登の冬の名物料理です。魚介類や野菜をいしるで味付けした鍋料理は、独特の深いコクが楽しめます。

近年では、いしるの旨味成分が科学的にも注目を集め、イタリアンやフレンチのシェフたちが隠し味として使用するケースも増えています。パスタソースやドレッシングにほんの少し加えるだけで、料理に奥行きのある旨味が加わると評判です。

能登のこんか漬けと糠の文化

こんか漬けは、魚を米糠(こぬか)と塩で漬け込んで発酵させた能登の伝統的な保存食です。「こんか」とは「米糠(こぬか)」が訛った能登の方言で、「こんかいわし」「こんかさば」「こんかぶり」など、漬ける魚の種類によってさまざまなバリエーションがあります。

能登の伝統的な糠漬け
日本の伝統的な糠漬け(Photo: DoWhile / CC BY-SA 3.0)

特に有名なのがこんかいわしです。新鮮ないわしを塩漬けにした後、米糠と唐辛子を加えて半年から1年以上漬け込みます。長期発酵により、いわしの身はねっとりとした食感になり、チーズのような濃厚な旨味が生まれます。そのままスライスして食べたり、軽くあぶって食べるのが一般的で、日本酒や能登の地酒との相性は抜群です。

こんかさばは、さばを同様に糠漬けにしたもので、こんかいわしよりもやや上品な味わいが特徴です。こんかぶりは寒ブリを使った贅沢な一品で、冬場に仕込まれる能登ならではの珍味です。

こんか漬けは、冷蔵庫のない時代に能登の漁師たちが大漁時の魚を無駄なく保存するために生み出した知恵の結晶です。糠に含まれる乳酸菌の働きで魚が発酵し、独特の風味と長期保存性が実現されます。現在でも穴水町や能登町、七尾市などの家庭や水産加工場で伝統的な製法が受け継がれています。お土産としても人気があり、能登の道の駅や特産品店で購入できます。

能登のかぶら寿しと発酵寿司

かぶら寿しは、塩漬けにしたかぶら(蕪)にブリの切り身を挟み、米麹(こめこうじ)で漬け込んで発酵させた石川県を代表する郷土料理です。「寿し」と名がつきますが酢飯は使わず、麹の発酵による自然な甘みと酸味が特徴の「なれずし」の一種です。正月料理として珍重され、12月から1月にかけて石川県内の家庭や料亭で作られます。

かぶら寿しの製法は手間がかかります。まず、冬の寒さで甘みが増した大きなかぶらを厚めにスライスし、塩漬けにします。別に塩漬けしたブリの切り身をかぶらに挟み、米麹と一緒に樽に漬け込みます。約1週間から10日ほどの低温発酵を経て、麹がブリの旨味を引き出し、かぶらのシャキシャキとした食感とブリの脂の旨味が調和した絶妙な味わいが完成します。

能登半島では、かぶら寿しのほかにも「大根寿し」「かぶのすし」などの発酵寿司文化が根付いています。大根寿しは大根とにしんを麹で漬け込んだもので、かぶら寿しよりも庶民的な味わいとして親しまれています。これらの発酵寿司は、能登の冬の食卓を彩る欠かせない存在です。

能登の発酵食品を味わえるお店・体験情報

能登半島では、発酵食品を実際に味わったり、製造体験ができるスポットがいくつもあります。能登の発酵文化を深く知りたい方におすすめのスポットをご紹介します。

ヤマト醤油味噌(金沢市大野町)は、能登のいしるを使った商品を多数展開する老舗醸造メーカーです。工場見学や発酵食品の試食体験が可能で、いしるの製造工程を学べます。ショップではいしるドレッシングやいしるポン酢など、日常使いしやすい商品も購入できます。

能登町のいしる製造所では、伝統的な木桶仕込みの製造現場を見学できるところがあります。漁師町の風情を感じながら、数百年続く発酵の営みに触れることができます。訪問の際は事前に連絡を入れると、職人から直接話を聞ける場合もあります。

輪島朝市七尾の食祭市場では、こんか漬けやいしるなどの能登の発酵食品をお土産として購入できます。特に冬季(12月〜1月)にはかぶら寿しの販売も見られ、季節限定の味覚を楽しめます。能登の海藻を使った発酵食品も注目されており、海藻の佃煮や塩辛など、海の幸を活かした加工品も豊富です。

能登の発酵食品は、長い歳月をかけて微生物が作り出す自然の旨味の結晶です。いしるの深いコク、こんか漬けのねっとりとした濃厚さ、かぶら寿しの麹の甘み——それぞれに能登の風土と先人の知恵が凝縮されています。能登の郷土料理とともに、発酵食品の奥深い世界をぜひ体験してみてください。

写真クレジット:
石川の冬の味覚・かぶら寿し — Ttaakkaco(Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0)
日本の伝統的な糠漬け — DoWhile(Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0)

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