能登の珪藻土と切り出し七輪 — 珠洲に伝わる日本唯一の七輪づくりの伝統

珪藻土の七輪
珪藻土で作られた七輪(Photo: Lombroso / Public domain)

能登半島の先端に位置する珠洲市は、珪藻土(けいそうど)の一大産地として知られています。この珪藻土を丸ごと切り出して作る「切り出し七輪」は、日本で唯一珠洲市だけで生産されている伝統工芸品です。軽くて断熱性に優れ、遠赤外線効果で食材を美味しく焼き上げる能登の七輪は、近年のアウトドアブームやグルメ志向の高まりとともに再び注目を集めています。

珪藻土の七輪づくりは、能登の地質と先人の技が融合した奥能登ならではの伝統産業です。能登の里山里海が育んだ自然資源を活かしたものづくりの世界をご紹介します。

能登の珪藻土と珠洲の地質

珪藻土とは、数百万年から数千万年前に海や湖に堆積した珪藻(けいそう)という植物性プランクトンの殻が化石化してできた堆積岩です。珪藻の殻はガラスの主成分であるシリカ(二酸化ケイ素)でできており、微細な孔(あな)が無数に空いた多孔質構造を持っています。この構造により、珪藻土は軽量で断熱性・吸水性・調湿性に優れた天然素材となっています。

珠洲市周辺の奥能登地域には、約600万年前の新第三紀中新世に堆積した良質な珪藻土の地層が広がっています。珠洲の珪藻土は特に品質が高く、耐火性と成形性に優れているため、七輪の原料として最適とされています。珠洲市では古くからこの地質資源を活かした産業が営まれ、珪藻土の採掘と七輪製造は地域の重要な産業となってきました。

珪藻土は七輪以外にも、バスマットや壁材、コンロなどさまざまな用途に使われています。近年は珪藻土の調湿・消臭効果が注目され、住宅の内装材やインテリア雑貨としての需要も高まっています。しかし、珪藻土の塊を丸ごと削り出して製品にする「切り出し」の技法は、世界的にも珠洲市だけに伝わる独自の技術です。

能登の切り出し七輪の製法と特徴

能登の切り出し七輪は、珪藻土の原石をノミやカンナなどの手工具で一つずつ削り出して成形する伝統的な製法で作られます。一般的な七輪が珪藻土の粉末を型に入れてプレスする「練り物」であるのに対し、切り出し七輪は天然の珪藻土塊をそのまま使うため、珪藻土本来の多孔質構造がそのまま活かされます。

製造工程は、まず珠洲市内の採掘場から珪藻土の原石を切り出すことから始まります。適度な硬さと均一な質感の原石を選び、工房に運びます。職人は原石の状態を見極めながら、ノミで大まかな形を整え、次にカンナで丁寧に内側と外側を削り出していきます。特に内側の火皿部分は、炭の燃焼効率を左右する重要な部分で、熟練の技が求められます。

成形後は数日間自然乾燥させ、その後窯で焼成します。焼成温度は800〜900℃で、この工程により珪藻土が適度に硬化し、耐久性が向上します。最後に送風口や五徳を取り付けて完成です。一つの七輪を作るのに約1週間から10日を要する手仕事の工芸品です。

切り出し七輪の特徴は、まず軽さです。珪藻土の多孔質構造により、練り物の七輪に比べて軽量で持ち運びしやすいのが利点です。次に断熱性の高さ。外側が熱くなりにくいため、テーブルの上に置いて使用できます。そして最大の特徴は遠赤外線効果です。珪藻土から放射される遠赤外線が食材の内部までしっかりと火を通し、外はカリッと中はジューシーに焼き上げます。炭火の熱を効率よく食材に伝えるため、少ない炭でも高い火力が得られるのも魅力です。

珪藻土七輪で焼くサンマ
能登珪藻土の七輪で焼くサンマ(Photo: DryPot / CC BY-SA 3.0)

珠洲の七輪工房と見学・体験情報

珠洲市内には、切り出し七輪を製造する工房がいくつかあります。代表的な工房と見学・体験情報をご紹介します。

珠洲市の七輪の里は、切り出し七輪の製造工程を見学できる施設です。職人が珪藻土の塊からノミとカンナで七輪を削り出す様子を間近で見ることができ、伝統の技に感銘を受けます。併設のショップでは各種サイズの七輪を購入でき、直接工房から購入するため品質も確かです。

一部の工房では七輪づくり体験も受け付けています。実際に珪藻土をノミで削る体験ができ、職人の指導のもとで自分だけのミニ七輪を作ることができます。体験時間は約1〜2時間で、完成品は持ち帰り可能です。事前予約が必要なので、訪問前に問い合わせることをおすすめします。

奥能登珠洲ビーチホテル周辺や珠洲焼資料館と合わせて訪れると、珠洲の伝統工芸を一度に楽しめます。珠洲焼もまた珠洲の土を活かした伝統陶器で、切り出し七輪と珠洲焼は珠洲の大地の恵みから生まれた「兄弟」のような存在です。珠洲めぐりのルートに組み込んで、奥能登の伝統工芸をまとめて体験するのがおすすめです。

能登の珪藻土七輪の選び方と購入ガイド

切り出し七輪を購入する際に知っておきたいポイントをご紹介します。

サイズの選び方は、使用人数と用途に合わせて選びましょう。1〜2人用の小型(直径約20cm)は卓上での一人焼き肉や干物焼きに最適。3〜4人用の中型(直径約25cm)は家族やグループでのバーベキューに。大型(直径30cm以上)は本格的な炭火調理に向いています。初めての方には中型がもっとも使い勝手が良くおすすめです。

切り出し七輪と練り物七輪の違いを理解することも重要です。切り出し七輪は天然の珪藻土塊から削り出すため、多孔質構造がそのまま残り、断熱性・遠赤外線効果・耐久性に優れています。一方、練り物七輪は珪藻土の粉末をプレス成形するため、安価ですが性能面では切り出しに劣ります。価格は切り出し七輪が数千円〜1万円以上と練り物より高めですが、丁寧に使えば10年以上持つ耐久性があり、長い目で見ればコストパフォーマンスに優れています。

購入場所は、珠洲市内の工房や直売所のほか、能登のお土産を扱う道の駅や物産館でも取り扱いがあります。輪島朝市や七尾の食祭市場でも見かけることがあります。近年ではオンラインショップでの販売も増えており、自宅にいながら能登の切り出し七輪を入手することも可能です。

使い方のコツとして、初めて使う際は弱火でゆっくりと七輪を温めることが大切です。急激な加熱はひび割れの原因になります。使用後は完全に冷めてから灰を取り除き、湿気の少ない場所で保管しましょう。水洗いは厳禁で、珪藻土が水を吸うとひび割れの原因になります。

能登の切り出し七輪は、数百万年の時を経た珪藻土と職人の手仕事が出会って生まれる、世界に一つだけの調理器具です。炭火の香りと遠赤外線で焼き上げる食材の美味しさは格別で、一度使うと手放せなくなる逸品です。珠洲を訪れた際は、ぜひ工房に足を運んで、能登の大地が生んだものづくりの伝統に触れてみてください。

写真クレジット:
珪藻土で作られた七輪 — Lombroso(Wikimedia Commons / Public domain)
珪藻土七輪で焼くサンマ — DryPot(Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0)

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